「愛の落日」はサントラアルバムとしての満腹度が高い
クレイグ・アームストロングという人は「ロミオ+ジュリエット」「ムーラン・ルージュ」などで才覚をあらわし、ソロ・リーダー・アルバムも出している才人ですが、この人の映画音楽は映像の盛り上げ効果が素晴らしく「プランケット&マクレーン」「ボーン・コレクター」などでドラマチックなスコアを書く一方で「Ray レイ」「ワールド・トレード・センター」などでは、しっとりとした音楽も書いています。
この「愛の落日」は、第二次大戦後のベトナムを舞台にした政治サスペンスであり、ラブストーリーでもあるお話なんですが、アームストロングがドラマチック、かつ抑制に効いた音楽を提供して、ドラマを最大限に盛り上げるのに貢献しています。
1曲目の「The Quiet American」は、川の流れのような弦とピアノに、女性ボーカルを絡ませながら、そこへピアノが主旋律を奏で、厚いストリングスをバックにうねるように女性ボーカルが入ってくるというもので、歴史としての時間の流れにラブストーリーを加えて、映画全体を見事に表現しています。メロディアスな曲の中でオーケストラをフルに鳴らす手腕はたいしたものだと思います。以後、アルバムはこのテーマ曲のバリエーションとなるのですが、時にはサスペンス風や女性ボーカルを多用したりといったことをしているのですが、あくまでメインテーマの線に沿っています。爆破テロのシーンに流れる音楽でさえメインテーマの重厚版になっているくらいです。
だからといって、アルバムが単調なのかというとそういうわけではなく、大変メリハリのある内容になっています。基本的には、メインテーマ一本で押し通しているのに、聞かせどころも多いし退屈するところがありません。それに各曲がきちんと完結しているというところにボリューム感を感じさせるのです。映画音楽のサントラというと、場面場面の音楽をつなげただけだと、始まりも終わりも曖昧な曲が多くなってしまうのはやむを得ないところがあるのですが、このアルバムはその意味からも聴き応え十分と言えましょう。