「愛の落日」はサントラアルバムとしての満腹度が高い


クレイグ・アームストロングという人は「ロミオ+ジュリエット」「ムーラン・ルージュ」などで才覚をあらわし、ソロ・リーダー・アルバムも出している才人ですが、この人の映画音楽は映像の盛り上げ効果が素晴らしく「プランケット&マクレーン」「ボーン・コレクター」などでドラマチックなスコアを書く一方で「Ray レイ」「ワールド・トレード・センター」などでは、しっとりとした音楽も書いています。

この「愛の落日」は、第二次大戦後のベトナムを舞台にした政治サスペンスであり、ラブストーリーでもあるお話なんですが、アームストロングがドラマチック、かつ抑制に効いた音楽を提供して、ドラマを最大限に盛り上げるのに貢献しています。

1曲目の「The Quiet American」は、川の流れのような弦とピアノに、女性ボーカルを絡ませながら、そこへピアノが主旋律を奏で、厚いストリングスをバックにうねるように女性ボーカルが入ってくるというもので、歴史としての時間の流れにラブストーリーを加えて、映画全体を見事に表現しています。メロディアスな曲の中でオーケストラをフルに鳴らす手腕はたいしたものだと思います。以後、アルバムはこのテーマ曲のバリエーションとなるのですが、時にはサスペンス風や女性ボーカルを多用したりといったことをしているのですが、あくまでメインテーマの線に沿っています。爆破テロのシーンに流れる音楽でさえメインテーマの重厚版になっているくらいです。

だからといって、アルバムが単調なのかというとそういうわけではなく、大変メリハリのある内容になっています。基本的には、メインテーマ一本で押し通しているのに、聞かせどころも多いし退屈するところがありません。それに各曲がきちんと完結しているというところにボリューム感を感じさせるのです。映画音楽のサントラというと、場面場面の音楽をつなげただけだと、始まりも終わりも曖昧な曲が多くなってしまうのはやむを得ないところがあるのですが、このアルバムはその意味からも聴き応え十分と言えましょう。

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「愛されるために、ここにいる」はファンタジーにしたくないファンタジー

封切からちょっと間があるんですが「愛されるために、ここにいる」を下高井戸シネマで観て来ました。ここはいわゆる一般公開後の映画を上映してくれる映画館でして、音響はドルビーステレオですが、スクリーンはこのキャパとしては比較的大きく、観やすい方に入る映画館でしょう。休日などは結構混雑しているのですが、上映する番組をよく選んでいるように思います。

父親から継いだ執行官という仕事を淡々とこなす五十男ジャン・クロード(パトリック・シェネ)は、息子に仕事を継がせようとしつつ、父親のホームへ毎週通って相手をするという日々を淡々と送っています。医師から運動するように薦められたジャン・クロードは、事務所の向いにあるタンゴ教室に通うようになります。そして、そこで、かつて母親が乳母をしていた娘フランソワーズ(アンヌ・コンシニ)と知り合いになり、二人は年が離れているけどなぜか意気が合い、お互いに好感を抱くようになります。しかし、フランソワーズには婚約者がいてタンゴ教室に通っていたのも結婚式で踊るためのものでした。そうとうは知らぬジャン・クロードはだんだんその気になってきますし、フランソワーズも自分の揺れ動く気持ちを整理しきれぬまま、初老の男に魅かれていくのでした。

私が持つフランス映画のイメージに「恋愛するとまっしぐら」というのがあります。他の事なんか全部すっとばかして、その恋愛にのみ精神を集中してしまい、生きるか死ぬかのところまで突っ走ってしまう、そんなイメージにピッタリの邦題だけに、ちょっと引いてしまう予感がありました。しかし、ステファヌ・ブリゼ監督のこの映画は恋愛の出だしは大変控えめなものになっていました。

ジャン・クロードは、税金や家賃の滞納を督促したり差し押さえしたりする執行官。あんまり楽しい仕事ではなさそうなんですが、淡々とその日その日を過ごしています。毎週老人ホームに通うあたりはいい息子さんみたいなんですが、偏屈な父親の相手にいい加減ウンザリ。そんな公私ともに面白くない主人公が医師の薦めでタンゴ教室に通い始めるところで生活に変化が生じます。そこには、かつての知り合いだった娘がきれいな女性に成長していた上に、彼に対して好奇心と好意を示してくれるのです。運のいいやつだと思いつつ、二人の関係はじわじわと好意の領域を広げていきます。私も主人公の年齢に近いせいか、ああいうふうに女性にやさしく接してもらえたら、気があると思っちゃうところは大変よく理解できます。でも、まあそれは彼女のやさしさであり、誰に対してもああいう態度なんだって、一人で納得してあきらめちゃうところなんですが、この映画では、フランソワーズが結婚を間近に控えているのに、本気でジャン・クロードに心が傾いてしまうのです。

ブリゼの演出はテンポがいいというか、省略がうまいというか、いつの間にか、二人の感情が一線を越えてしまっていて、そこからどう着地するのかが興味のポイントとなります。ところが、この映画では、恋愛感情を思いっきり盛り上げきるラストをもってくるのが意外でした。そこに至るまでに、それまでの淡々とした主人公の日常にそれなりの片がつくってことはあるんですが、その身辺整理がついた結果、一度はあきらめた恋に再度一途になれましたという感じなのです。一方のヒロインはまだどこか心に決めかねるものを抱えたままの状態なんですが、それでもタンゴ教室に通っているあたり、元には戻れない状況にはなっているようです。そうした、やや消極的な二人がひかれあう様子をじっくり積み上げていくのかと思いきや、一気に大団円にしてしまうのは、私にはやや性急な感じがしましたが、これがフランス映画の恋愛の温度だと言われると、そうかなーという気もします。でも、それまでの人生やり直しという意味ではこの結末しかないのかもしれません。変にシビアなそろばん勘定をオミットさせた脚本と演出のやさしさを評価すべきなのでしょうね、きっと。

これが小娘だと親子ほどの年の差になってしまうのですが、主人公が50歳でヒロインは三十台なので、まだ「あり」な関係になっているという点も見逃せません。ヒロインを演じたアンヌ・コンシニは若くはないけどはつらつとした大変魅力的な女性になっており、学校の進路指導員という設定が大変納得できるキャラクターになっています。彼女の持つある種の聡明さが、この映画に刹那的な印象を与えないようになっているのがうまいと思いました。一方のジャン・クロードもくたびれた中年男なので、恋愛で暴走はしそうなタイプではありません。そんな二人がそれでも魅かれ合うという物語は、私のような中年男にはファンタジーであり、嫁入り前の娘さんを持つ親御さんには悪夢であり、三十台女性にとっては不可思議なミステリーゾーンになるのではないかしら。まあ、オヤジにとってファンタジーである必要はないのですが、あり得ないよなあ、こんなの(しみじみ)。

偏屈な父親を演じるジョルジュ・ウィルソンが少ない出番ながら印象的でして、この映画の中で一番の存在感を見せます。また、全編を流れるタンゴ音楽が聴き応えありました。

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einhorn2233

Author:einhorn2233
Yahooブログから引っ越してきました。静岡出身の横浜市民で映画とサントラのファンです。よろしくお願いいたします。

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