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「ツォツィ」に観るリアルな現実とラストの希望


新作の「ツォツィ」を銀座シネパトス2で観てきました。地下鉄の音に慣れれば結構快適な映画環境で、アナログのドルビーステレオもサラウンドまできちんと鳴っていて、ここは好きな映画館です。

南アフリカのある街、不良グループは地下鉄の紳士に目をつけ、車内で強盗を働き、勢いでその紳士を殺してしまいます。そのグループの一人ツォツィは、金持ちの自動車を盗もうとして、女性を撃ってしまい、逃走。ところがその車の中に赤ん坊が乗っていたのです。最初は見捨てようとしたツォツィですが、幼い頃の自分が頭をかすめて、ついには自分の家に連れてきてしまいます。そして、近所の子連れの女性ミリアムの家に銃を持って押し入り、赤ん坊に乳を与えるように脅します。一方、金持ちの赤ん坊を誘拐したことから、新聞にもツォツィの似顔絵がでかでかと載って、だんだんと捜査網もせばまってきていたのでした。

アフリカの不良グループというのが日本とどう違うのかはわかりませんが、ツォツィは強盗や盗みで金を稼いでいたようで、冒頭、地下鉄での周囲に人がいる中での強盗はびっくりさせられました。フラッシュバックで彼の過去が語られるのですが、父親は暴力的で、母親をエイズで亡くし、その後、土管の中でホームレス生活をしていたようです。そんな荒んだ生活を送っている彼は、またしても自動車を盗もうとします。丸腰の女性に向けて躊躇なく引き金を引く彼の非情さは、本物のワルとしか言いようがありません。むき出しになった攻撃的な感情だけで行動しているように見えます。

そんな彼が赤ん坊を前にして、どうしようか困ってしまうのですが、脚本・監督のギャヴィン・フッドは、情緒的な部分を削って、ツォツィの行動を丹念に追っていきます。その中に、社会の様々な問題を織り込んで見せていて、夫が行方不明の母子家庭、土管暮らしの子供たち、車椅子の老人、盗品売買ルートなど、貧しいスラムの様子が描かれています。特に、車椅子の老人のエピソードがじっくりと描かれていまして、「なぜ、そんな体でも生きてるんだ?」「太陽を感じたいから」というツォツィとのやり取りが印象的でした。生きている意味は理屈じゃないんだというところが、大変共感できました。また、貧しいながらも、赤ん坊を引き取ってもいいというミリアムのやさしさも、ツォツィの心を動かします。

ツォツィと仲間は赤ん坊の家に再び押し入るのですが、そこの主人を撃とうとした仲間をツォツィは逆に射殺してしまいます。そこで、彼は赤ん坊の部屋を物色するのですが、そこにある赤ん坊のおもちゃやミルクを盗んで、自分で赤ん坊を育てようと思っているらしいのです。そんなことは無理だと言われてミリアムに諭されるのですが、そこで、ツォツィも赤ん坊を親元へ返そうという決意を固めます。このあたりの演出は説明的な部分を省いてあくまでツォツィの行動のみで物語を語っていくというもので、そこにあえて泣きや感動を差し挟まないところにドラマとしての力強さを感じました。

そして、ツォツィが赤ん坊を親の家に返しに行くところでクライマックスになるのですが、そこをフッド監督はじっくりと描きました。赤ん坊を返しに来たところを警官に見つかって、家の前で警官に取り囲まれて、赤ん坊を抱えたまま身動きがとれなくなるツォツィ。そこで、赤ん坊の父親が赤ん坊を返しにきたというツォツィを信頼して、警察の動きを止めます。泣きながら父親に子供を手渡すツォツィに、地下鉄強盗をしていた時の顔はありません。ここにも一切にセリフは入らず、その彼の表情と行動だけでドラマを語りつくします。そこに感情の機微はありませんが、一つの希望が静かに描かれているのです。彼のこれまでしたことはきっと殺人もあるでしょうし、強盗も何件も働いているでしょう、それらがこの行為によって償われるわけではありません。そこに希望の灯を見出す演出が見事だと思いました。そして、その希望がこの映画に描かれている社会の様々な問題に向けても光を放っているところは見逃したくないと思います。

ツォツィを演じたプレスリー・チュエニヤハエが前半の凶暴さと後半の人間性を見せるところを見事に演じ分けて圧巻でした。また、ミリアムを演じたテリー・ペートがまるでスラムの中の天使のような演技で、ある意味神々しく見えました。この他、全ての演技者がリアルな存在感を見せていまして、こういうリアルな人間ドラマを見せながら、最後に希望を描ききるフッド監督は只者ではないと思います。次回作はハリウッドスターを使った映画のようですが、期待したいところです。

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Yahooブログから引っ越してきました。静岡出身の横浜市民で映画とサントラのファンです。よろしくお願いいたします。

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