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「グリーン・ゾーン」のサントラはとにかくドコドコ鳴っている


アクション映画の音楽というと、主人公のテーマなりがあって、それにアクションシーンのテーマがつくといったパターンがあります。007シリーズなんてのはその典型なのですが、最近のアクション中心の映画は、明確なテーマをつけないまま、打撃音をつなげて、ドラマの効果音のような扱いのもの多いように思います。まあ、最近の映画はラブストーリーでも明確なテーマメロディが出てこないものもありますから、アクション映画に限ったことではないのですが、それでも何だかつまらないご時世になったような気もします。

「グリーンゾーン」もその最近の映画の一本でして、明確なテーマは聞こえてきません。音楽を担当したのは、「ボーン」シリーズや「ユナイテッド93」で、ポール・グリーングラス監督とは何度も仕事をしているジョン・パウエルでして、この人「チキンラン」「シュレック」などのアニメでも実績のある人で、その場面場面をフォローする音楽を書かせるとうまい人です。その分、あまり耳に残るメロディはないのですが、この映画でも、その職人的なうまさは発揮されています。映画自体は、政治的サスペンスものではありますが、全編にわたってアクションシーンの見せ場が散りばめられています。そして、音楽はかなりの頻度で鳴っているのですが、あまりにも地味な、影のポジションに徹しているので、映画を観ている最中はほとんど耳に入ってきません。

ところが、サントラ盤で聞きなおすと、相当に鳴っているのですよ。パーカッション中心で、シンセやストリングスも打撃音として使われ、ちょっとだけ中東っぽい味付けはされているものの、徹底してドライ。情感のかけらもないような音楽ですが、徹底して事件を追っているドラマと見事にシンクロしているのです。アクション音楽のパターンとしては、アクションを音楽が引っ張っていくような場合があります。007のテーマなんてのはあの曲がシーンのテンポを決定づけているとも言えるのですが、その一方で、アクションシーンでも、編集のテンポよりやや遅めの音をつけて重量感を出す場合があります。「グリーン・ゾーン」では、編集の呼吸と音楽のテンポがきっちりと合うことで、映画を観ている時は音楽をほとんど意識しないのですが、実際は相当テンポの早い音がドコドコ鳴っているのです。それも、腹に響くような低音だけでなく、高音部もかなり鳴ってるのが驚きでして、これくらい鳴らしても、実際の効果音がバリバリに鳴っているので、音楽だけが先走っていないのですよ。うーん、そんなにやかましい映画だったのか。デジタル6チャンネル音響もいいけど、ひょっとして私たちはその分大きな音に鈍感になっているのかもしれません。

音作りとしては「ユナイテッド93」と似たところがあって、徹底してドライな音をドラマの盛り上げに合わせて積み上げているのですが、戦闘シーンが多い分、そこは激しい音になっています。とにかく、どの曲も全力疾走しているような音ばかりで、メリハリは欠くのですが、どの曲もリズム部分が明確でそれが観客のテンションを上げるのに貢献しています。こんな効果音みたいなのは音楽じゃないなんて昔は思っていたのですが、効果音に徹した音楽もまたありなのかなっていう気がしてきます。ただ、この音楽は、テレビのドキュメンタリーなんかでは使えにくそう、とにかくテンポが早いですもの。普通の絵にこの音をつけたら、音楽だけが先走っちゃいますもの。

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「FILM MUSIC 2009」は選曲が楽しくて、演奏もグッド


年に1回発売される映画音楽のアンソロジーアルバムです。演奏はシティ・オブ・プラハ・フィルハーモニックが中心で、フルオケならではの厚い音が聞けますし、その年の映画音楽からの選曲がなかなかに面白いのですよ。この2009年の音楽集も選曲の面白さもありますし、こうして聞いてみると最近の映画音楽もいい曲があるなあって再認識することができます。このシリーズは変にオーケストラのカラーを出すことなく、基本的にサントラに忠実な演奏をしていまして、その点でも評価が高いです。

1、「アバター」より「WAR」
これは、言うまでもなく、大ヒット3D映画の音楽で、ジェームズ・ホーナーが思いっきりオケとコーラスを鳴らしています。その中でもラストの戦闘シーンの曲をコーラスも加えて演奏していまして、サントラと肩を並べる熱い演奏になっています。

2、「トランスフォーマー/リベンジ」より「Prime / I Rise, You Fall」
「トランスフォーマー」の続編の音楽をスティーブ・ジャブロンスキーが担当しました。コーラスを交えた重厚なテーマが聞けます。いかにも、ハンス・ツィマー一派(RC)らしい音になっていまして、「ザ・ロック」の続編のテーマだと言われても納得しちゃいそうな一曲です。

3.「Let The Right One In」 より「Eli's Theme」
日本未公開の切なめバンパイアホラーの音楽を担当しているのはヨハン・ソダービストです。サントラはシンセによる美しいテーマが印象的なのですが、これをオーケストラで演奏していて、スケールアップ。このアルバムでも一番の聞き物になっています。映画は結構血みどろらしいですが、切なくも美しいテーマはラブストーリーを思わせて、ホラー映画もあなどれないと改めて感心。

4、「スペル」より エンドクレジット
サム・ライミ監督のゲロゲロホラーの音楽を担当したのは、ホラー映画の実績が多いクリストファー・ヤング。最近は、メロディラインが曖昧な音楽が多かった彼の作品の中では、明快なテーマを打ち出しているもので、バイオリンのソロとコーラスがおどろおどろしいテーマを彩っています。こういうホラー映画の音楽はオーケストラの厚みがハッタリとなって効いてくるのですが、ここでは、エンドクレジットの長い曲できっちりと聞かせてくれます。

5、「ワルキューレ」より「They'll Remember You」
全編英語のドイツ軍秘話の音楽を手がけたのは、編集もする映画音楽職人のジョン・オットマン。どちらかというと、地味な描写音楽という印象の強い人なんですが、ここではコーラスも交えた重厚なテーマを聞かせていまして、まるでレクイエムのような音が聞き物です。

6、「レボリューション・ロード」より エンドクレジット
トマス・ニューマンによる独特のサウンドが印象的な映画でしたが、ピアノの反復音にストリングスが絡んでいく音をこのアルバムでもサントラに忠実に再現しています。

7、「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」より 「Postcard / Daisy's Ballet Career」
ブラピ主演のドラマの音楽を手がけたのは、フランスからハリウッドに進出してきたアレクサンドラ・デスプラ。流麗なワルツが印象的です。

8、「デファイアンス」 より 「The Exodus」
シリアス戦争ドラマに、硬軟両方使い分けるジェームズ・ニュートン・ハワードが硬派な音をつけました。地味でもいい音楽なのですが、この曲、どっかで聞いたことあるような気がして。

9、「スラム・ドッグ・ミリオネア」より「Latika's Theme」
オスカー受賞のインドを舞台にした映画の音楽を手がけたのは、ハリウッドでも実績のあるA.R.ラフマーンが手がけました。シタールの音を交えたりしてインド風のタッチを出してはいますがメロディラインはアメリカ映画風のラブテーマになってます。8と9の曲は、ロンドン・ミュージック・ワークスが演奏しています。

10、「ニュームーン/トワイライト・サーガ」より「The Meadow」
バンパイアものですが、青春恋愛映画のカラーが濃い映画の音楽をアレクサンドラ・デスプラが手がけました。ピアノソロによるテーマはホラーというよりは恋愛映画風ですが、それでもどこか陰影があって、甘苦い予感がいっぱいな感じ。

11、「スタートレック」より「Hella Bar Talk / Enterprising Young Man」
新しいスタートレックの音楽を手がけたのは、近年乗りに乗っているマイケル・ジアッチーノです。明確なテーマはあるものの1フレーズより先の展開が弱いように思うのは、ジェリー・ゴールドスミスの「スタートレック」になじみ過ぎてしまったからかな。

2009年のサントラスコアの総決算というと大げさですが、重要なところを押さえていますし、演奏も聞き応えがあります。昔、日本のスタジオオーケストラが演奏した映画音楽のアンソロジー盤がたくさん出回っていました。20曲1500円のLPを何となくお得感もあって買って聞いてましたけど、最近はあまり見かけなくなっちゃいました。映画音楽、特にスコアものは売れなくなっているのかと思うと寂しい限りですが、その一方でこういう企画盤が出るのはうれしく思います。

「プレシャス」はシビアな現実よりも未来への希望を読み取りたい

今回は新作の「プレシャス」を109シネマズ川崎4で観てきました。ここは、IMAXが売り物なんですが、なかなかトライする機会がありません。一度観てみたいとは思っているのですが。

16歳のプレシャス(ガボレイ・シディベ)は、母親(モニーク)の恋人にレイプされた結果、二人めの子供を妊娠していました。そのことが学校にばれて、退学処分になり、代替学校を紹介されます。母親はプレシャスを虐待し、「学問なんか必要ない」と言って、生活保護をもらってテレビばかり観てる日々。辛い日々を送るプレシャスが心なごむのは、空想の世界で理想の自分になっているときだけ。さて、代替学校に行ってみれば、生徒はみんな訳ありながら、レイン(ポーラ・パットン)の指導は、プレシャスの心を少しずつ癒していきます。福祉局のワイス(マライア・キャリー)の前で洗いざらいをぶちまけることで、生活保護が打ち切られてしまい、子供が生まれて家に戻ったプレシャスは、母親に家からたたき出されてしまいます。行き場がなくなった彼女はレインの奔走のおかげで住む場所を確保しますが、果たして彼女は、未来を立ち上げることができるのでしょうか。

アカデミー賞をはじめ様々な映画祭で賞を取った作品です。舞台は、1987年のニューヨーク、ハーレムで母親と暮らすプレシャスという太った女の子が主人公です。彼女の境遇は悲惨です。母親の恋人にレイプされて生まれた子供はダウン症でおばあちゃんに預けられ、さらに今もレイプされた子供がお腹の中にいます。母親は物理的精神的両面からの暴力で彼女を縛り付けていて、「お前は何の価値もない」「お前は誰からも愛されない」と罵るひどい女。そんな過酷な状況下でも、どこかで未来への希望を持ち続けているプレシャスはある意味強い女性だと言えます。幼い頃から、あんな母親に育てられたら、卑屈で共依存な娘に育ってしまうように思えるのですが、彼女はまだ自分を見捨ててはいません。空想の世界で、彼女は自由であって、その世界での夢見る乙女ぶりは微笑ましいものがあります。この映画では、ヒロインのナレーションや、空想のシーンがよく登場するのですが、見た目の表情の変化が少ない彼女の心の中を描写するのにこの手法は正解だったようです。あんな子でも、心の中ではそんなこと考えてるのねってことがきちんと伝わってくるのは、いい意味でのサプライズでしたもの。

でも、現実の世界はますます厳しくなってきて、妊娠のせいで学校を退学、でも、そこの校長が代替学校を勧めてくれたおかげで、プレシャスはレイン先生との幸運な出会いをするのでした。この先生のキャラはプレシャスの中で美化されているところもありますが、いわゆる理想の教師になっています。ポーラ・パットンのキリっとした外見と相まって、この映画の中で不思議な輝きをしています。この代替学校に集まる生徒がそれぞれに読み書きを学びたいという気持ちでつながっているところに、これって出来過ぎだよねって思いつつもちょっとした感動がありました。授業の中心は、ノートに言葉を書いていくこと。それすらも満足にできない生徒たちがその境遇から這い上がろうというする姿勢をきっちりと描いているところが共感を呼びます。プレシャスも自分が賢くなっていくことがうれしい、子供に本を読んで聞かせてやりたい、そんな普通な感覚を、彼女の中に発見していくことで、観客の方も彼女への見方が変わってくるのです。

リー・ダニエルズの演出は、娯楽映画のツボを押さえていまして、観客を引き付けて離さないうまさがありました。酷い境遇であるのですが、目を背けたくなる描写は控えてありますし、プレシャスの外見が良くないので、すぐには感情移入しにくいあたりのさじ加減もうまいと思いました。この映画で、結局彼女の前に白馬の王子様が現れるわけでもなく、また急に明るい未来が開かれるわけでもありません。結局、貧乏人はこんな人生しかないんだぜって突きつけているようなところもあります。それでも、未来への希望は消えないというところにこの映画のキモがあるような気がします。それは、誰にも束縛されない自由としての希望だからです。それを、無意味だと言うのは簡単ですが、心の中に自由を持ち続けていることが大事であり、だから人間生きていけるってところがあります。そして、その自由を束縛するものに対して、この映画は冷ややかな視線を投げかけています。観客の視点として登場するのが、福祉局のワイスという女性ですが、彼女は常に冷静にプレシャスを見つめています。これを化粧っ気のないマライア・キャリーが演じていまして、演技をしない演技ともいうのでしょうか、観察者の視点を演じきったところが見事でした。



この先は結末に触れますのでご注意ください。



何とか、母親から逃げ出して息子と二人で暮らせるようになったプレシャスですが、彼女の父親がエイズで死に、彼女自身もHIV陽性であることがわかります。この事実は、1987年という時代を考えると、今よりも相当なショックだったでしょう。そして、母親が彼女と同居したいと言い出して、 福祉局でワイスと共に面談することになります。これまでは、お役所の前では、いい母親を演じてきたのですが、ワイスに性的虐待のことを問いただされた母親は、ダンナを自分の方に向けさせるためには、ダンナの思うようにさせなきゃならなかったと涙ながらに告白します。誰にも愛されない自分には耐えられないと。自分は被害者だという母親の言葉にはウソはなさそうな気がします。でも、だからと言って娘を虐待していい理由にはなりません。多分、娘や孫との同居も金がらみが理由なのでしょう。そして、泣き落としにかかるべく、母親は、ダウン症の孫を連れてきます。しかし、プレシャスはその自分の娘を引っつかんで事務所を出て行きます。そして、二人の子供を連れて、街を歩くプレシャスの姿を映してエンドクレジットとなります。

ホントに悪辣という言葉しっくりくる母親を演じたモニークが素晴らしかったです。常軌を逸した悪い奴のようでありながら、リアルな存在感があるのですよ。娘への暴力がすごいし、言うことのえげつなさもひどい。自分が人から愛されないことを、全部娘に押し付けちゃう最低の母親。娘が自分のダンナにレイプされたのに、娘にやつ当たりするあたりはホントに最低。ここで、文化の違いかなとも思ったのは、母親もプレシャスも誰かに愛されたいという気持ちが非常に強いということ。私なんか、そういう実感もないまま生きてきましたが、それが人生の中で優先度が高くなったことはないですもの。誰からも愛されないことを強く言われて育った結果、その劣等感が異常に肥大したのかもしれませんが、やはり、誰かに愛されることで救われるところが大きいのかしら。プレシャスのナレーションの中で、神様はちゃんと見ているという言葉があるのですが、せめて神様には愛されている自分であって欲しいって気持ちは、何か追い詰められて痛々しいものがありました。普通に生きてればやり過ごせるようなものが、強い痛みとなって感じられてしまうのは、気の毒な気もしました。

ラストでも、プレシャスの未来は暗雲が垂れ込めていますが、それでも若干の希望の光が見えるという終わり方になっています。また、その基盤となっているのが教育であるという点にこの映画の持つメッセージを感じました。教育を受けること、賢くなること、読み書きを覚えることが生きていく上での重要なことであるということ。日本だとピンと来ないところもあるのですが、この映画を観ていると、教育の重さを再認識できるように思います。

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einhorn2233

Author:einhorn2233
Yahooブログから引っ越してきました。静岡出身の横浜市民で映画とサントラのファンです。よろしくお願いいたします。

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