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「シルビアのいる街で」は、音が動き、光が動き、人が動いて、LRTが動く

今回は新作の「シルビアのいる街で」を、横浜シネマベティで観て来ました。DLPの上映でしたが、やはりコントラストの高いエッジがにじむ感じになるのは減点。どうして、フィルムで上映してくれないのかしら。今はほとんどみかけなくなったビデオシアターも画質がフィルムに劣ったそうですが、テレビの画面が大きく精細になってきているのに、映画館が画質落とすのはどうにも解せないです。

フランスのとある町、ホテルで目を覚ました青年(グザヴィエ・ラフィット)は、地図を手にカフェに出かけます。隣の女性に声をかけるが無視されてしまいます。翌日、またホテルを出た青年は別のオープンカフェに出かけます。たくさんの人がいるカフェで、周囲を見ながら、女性のスケッチを描き、「シルビアのいる街で」とメモを書きます。カフェの屋内にいたある女性(ピラール・ロペス・デ・アジャラ)に目を止めた青年は、店を出る彼女の後をつけていきます。街の中を追跡し、一度は見失いますが、LRT(路面電車)に乗った彼女に声をかけます。「シルビアでしょ? バーで6年前に会ったよね。」「人違いです。」「最低だ。」「ずっとつけてきたでしょ。気持ち悪かったわ。」なんて会話になって、二人は別れます。その夜、6年前にシルビアと会ったバーで飲んでる青年、そこで会った女性と一夜を過ごしたようです。そして、翌日、またカフェに座っていると、彼の視線の中にシルビアらしい女性が入ってきます。LRTの駅まで後をつけた彼は、駅のベンチに座って、人々をながめているのでした。おしまい。

スペインのホセ・ルイス・ゲリンが監督と脚本を兼任しました。フランスのドイツ国境近くの町ストラスブールを舞台にして、実験的というか、やりたい放題というか、アートっぽい雰囲気の映画に仕上げています。ちなみに、LRTというには、Light Rail Trainという、最新の都市交通のことでして、路面電車と書くとノスタルジックですが、実際は最先端のスマートなデザイン(日本の私鉄特急が路面を走っているような感じ)でして、日本でも導入されてきています。この映画の中では、LRTがかなり重要な要素になっています。窓が大きいので、光がたくさん入り、さらに窓は街の景色を写す鏡になっています。

ストーリーを追っても映画の全容は語れません。ほとんどの時間、カフェと街のスケッチ映像が流れていまして、そこに妙にやけに立体感のある音付けがされています。デジタル音響でない劇場で観たのですが、それでもやたら左右の音の移動が意識的にされています。もとが5.1チャンネルのドルビーデジタルだけに、サラウンドもつけるとそうとうリアルな音の空間につつまれることになったでしょう。特に自動車や人の足音などの移動感がすごく、普通の映画に比べて、映像のバックの音が前面に出てきて、その音圧もかなり強いつくりになっています。

カフェでも、そこにいる様々な人にカメラを向けて、会話する人、ただ黙っている人をえんえんとながめさせられることになります。カメラが街へ出ても、様々な通行人の様子を移動ショットやロングのショットで捉え、そのバックのリアルな音を聞かせることを繰り返します。ただし、そういうシーンでは、意味のあるセリフは登場しません。雑踏としての人声は聞こえてきますが、意味のある会話ではなく、効果音みたいな扱いなのです。カフェでの風景をえんえんと流した後、今度は、青年が女性を追跡する様子をえんえんと流します。それも、二人をカメラが追うのと、街の風景を流すのを半々くらいです。そんな中で、人の顔はきちんと押さえていまして、あれ、さっき見た顔がここでまた出てきたなんて気づくこともあります。また、ガラスに映る風景を捉えたカットも何度も登場します。また、LRTに乗り込んでからは、街はスピード感を増して動き出します。太陽の光がLRTのスピードに合わせて色々な影を落としていきます。

どうやら、この監督さんは、街を音と光を使って、色々な見せ方をしたいようです。通行人や通る自動車、街の看板などは全て計算されたもので、自分の思うような街を作り出そうとしているかのようです。ゲームのシムシティの映画メディア版とでも言えば感じが伝わるでしょうか。そういう見せ方をしてきて、青年がLRTの中で女性に話しかけると、何だか呼吸が乱れたような雰囲気になるのがおかしかったです。でも、その妙な雰囲気を、青年と女性の関係とシンクロさせているのがうまいと思いました。青年なやっとの事で、話しかけたものの、人違いと言われた上、それまで尾行していたことも知っていたと聞かされてがっかり。さらに追い討ちをかけるように、変なのに尾けられて気持ち悪かったと言われちゃいます。LRTが天井まで窓が伸びているので、外の光が入り込み、それがLRTの移動とともに変化するので、会話する絵も美しく見せてくれます。また、二人を演じる俳優さんも、透明感のある美形なので、絵が映えるのですよ。

そして、LRTの中で二人は別れて、青年は酒場に行き、酒を飲んだ後、女の子と一夜を過ごすのですが、ここは、映画の中のインターミッションみたいな感じです。翌朝、また街の風景がリアルな音とともにえんえんと描写された後、青年がカフェからLRTの駅まで行って、今度はLRTの駅の周りの人や風景をえんえんと映します。LRTへカメラを向けると、中の人が映ったり、窓に街や外にいる人が映ったりと様々な顔を見せてくれます。監督として、見せるものは見せきった気分になったのか、画面が暗転し、街の雑踏の音だけ流れて、エントクレジット。

青年はノートを持っていて、そこに女性の姿をスケッチしています。カフェでも、ウェイトレスや女性客のカットがたくさん登場して、彼が女性ばっかり見てるらしいことが示唆されます。とにかく物語が動くところは、LRTの中での二人の会話シーンだけなので、後は、監督が見せたい女性、街の姿をえんえんと映し出すだけ。普通の映画の感覚だと、物語がなさすぎて、何だこりゃという気分にもなるのですが、たまには、こういう映画も面白いと思うことができました。それは、音や映像そのものを聞かせたい見せたいというのが伝わってくるからです。こんな映画ばかり見せられたらかなわないけど、たまにこういう映画にあたるのも悪くありません。登場する青年と女性が美形なので、彼らをえんえんと追うだけの絵に耐えられるということもあるのかもしれません。また、街がどこか限定された空間に見えるのも、不思議な味わいに一役買っています。LRTが街の隅々に通っているようで、全部を歩ききれてしまうような雰囲気がありまして、そこにリアルな街とは違う、「街のような空間」を感じさせます。

この映画は、音と映像の両方あっての面白さが見えてきますので、家の小さなテレビや、立体音響の効果の得られない場所で鑑賞するには不向きです。音と光を劇場で楽しむ映画だと申せましょう。実験的な作りの映画ですので、観る方も「試しに」この映画に乗っかってみるかという、大らかな気持ちで臨むのがいいみたいです。

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Author:einhorn2233
Yahooブログから引っ越してきました。静岡出身の横浜市民で映画とサントラのファンです。よろしくお願いいたします。

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