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「主戦場」は日系アメリカ人監督の視点で従軍慰安婦問題を描いたドキュメンタリー、勉強になりました。

小さい文字主戦場
今回は、横浜の伊勢佐木町の唯一残る映画館、横浜シネマリンで「主戦場」を観てきました。8月ということで戦争に関するドキュメンタリーや映画をかけてくれる映画館ですが、お客さんは、私(←半分ジジイのオヤジ)よりも年長の方がほとんどです。映画館が年寄り向けのカルチャースクールになっちゃうのはもったいないよなあ。

日系2世のミキ・デザキが監督、撮影、脚本、編集、ナレーションを一人で行った、従軍慰安婦問題を扱ったドキュメンタリー映画です。私が知っている従軍慰安婦問題というと、1990年代に突然湧き上がって、いわゆる偏向メディアと言われる朝日新聞が取り上げ、韓国からも元従軍慰安婦が名乗りを上げ、国際問題にもなったが、いわゆる日本政府や日本軍が強制連行したかというとそのあたりは嘘くさくて、それでも性的被害者に遭った女性には日本政府としては謝罪の意を表したけど、結局、朝日新聞が従軍慰安婦についての報道に虚偽があったことを認めたという流れです。でも、虚偽報道を認めたときには、慰安婦問題は韓国や中国の日本バッシングの恰好の題材となっていて、アメリカにも従軍慰安婦像が建てられるようになっているという感じでしょうか。テレビニュースレベルの知識なので、深く知ってるわけではなかったので、従軍慰安婦問題についての映画ということでは認識を深めたいという動機でスクリーンに臨みました。

映画は、従軍慰安婦問題の経緯の字幕から始まり、日韓合意に至ったところで、後付けでその事実を知らされた元慰安婦の女性が、韓国の役人に抗議するシーンになります。そして、前半は主に、日本の右派の人間へのインタビューとなります。なるほど、元慰安婦の証言が後になった変わったり、日本側の証拠となる文書がなかったりといった話はどうやら事実らしいです。でも、右派へのインタビューの見せ方(特に編集)には、彼らをこの映画の中の悪役にしようとする意図が感じられ、「ああ、そういう立場ね」というのが見えてきます。でも、元慰安婦へのインタビューでお涙頂戴の展開になっていないのが面白い展開となります。さらに、慰安婦像を建てようという韓国の市民団体(これは微妙な表現ですね、プロ市民かもしれないし)のデモンストレーションとか、彼らへのインタビューを見せます。映画は、この一件への様々な切り口を明確に見せてくれるので、「ああ、そういう立場に立てば、そういう理屈になるなあ」というのをわかりやすく理解することができると言う点でよくできていると思います。また、作り手がアメリカ人という点で、アメリカ人の文化というか正義観が伺えるのも、面白かったです。私は、ミキ・デザキの見解には反対なのですが、筋道をわかりやすく表現しているところに彼の誠実さを感じます。まあ、その考え方は好きじゃないけど。

監督の視点は、まず慰安婦というのは性奴隷であるという議論には賛成らしいです。でも、性奴隷にされたのは誰のせいなのかというところは証明できないし、そこは重要視していません。さらに、従軍慰安婦像は、平和と祈りのモニュメントだから、設置を反対するのはよくない、むしろ設置すべきだという意見を持っています。一方、右派の人間も慰安婦の中に騙されたり強要されて慰安婦にさせられた女性がいることも否定していません。でも、右派の人間からすれば、慰安婦の悲惨な人生の原因が、大日本帝国と日本軍にあることは絶対に認めたくはないようです。ですから、慰安婦問題について、ちょっとでも疑義があるなら、それは信用するに値わずという立場をとっています。そこまでは、私も頭を整理してついていけたのですが、それ以外にも様々な視点や意図がこの問題には含まれているとわかってくると、結構厄介な話になってきます。

右派の池田水脈議員(この人、この映画ではさんざんな描かれ方をしてます。右翼は嫌いだけど、率直な意見を、極悪非道みたいに編集されているのはちょっと気の毒。)が、高齢の元慰安婦の証言はあてにならないという言い方をします。冷静に考えると人間の記憶はどこまで信用していいのかあてにならない部分もあるのですが、アメリカの公聴会で、その点を指摘して否定派の人間が、議長から「被害者の証言を否定するなんて、恥を知れ」と言われるシーンがすごく印象的でした。一度、被害者認定されるとその証言が真偽を越えて物凄く力を持ってしまうというのは、結構怖いものがあると思います。アメリカでは、過去の偽記憶から、親が、性的暴行の加害者として訴えられて敗訴するというケースが多発したそうで、それを覆すのはすごく大変なことらしいです。日本でも痴漢冤罪のパターンがありますしね。被害者は気の毒だけど、その気の毒さ加減が、加害者を特定する材料にはならないのですよ。でも、デザキ監督は、酷い目に遭った慰安婦の像を作って平和を祈るのはいいことだというスタンスを取ります。でも、日本人の私からすると、全ての性奴隷となった女性の代表が、日本によって強制連行された韓国人従軍慰安婦だと言われるのは釈然としないものがあります。だって、性奴隷の加害者の代表が日本だと言われると、うれしくないという身びいきの部分と、本当に日本軍が強制連行したかどうかははっきりしていないように思えるからです。それって、事実確認前のイメージ先行のネガティブキャンペーンだよねって思っちゃうのですよ。

また、この映画では、貧しさから身を売って従軍慰安婦になった女性であっても、いくら金をもらったかに関係なく、不本意な性行為をした女性は、全て性奴隷だという立場を取っています。これは難しいことになってきました。あの時代、日本軍が中国人を度胸試しで殺したり、女性をレイプしたという話は、私はあったこととして認識していまして、それって日本が向き合うべき恥だと思っています。でも、大昔からある売春という商売を奴隷と言い切るのは歴史的にどうなの?って思ってしまいます。日本軍の指示で、慰安所を作るように指示された韓国の業者が、未成年の女性を騙して慰安婦にしていたという場合、確かにかわいそうな境遇にある女性を抱きに行った兵士が後ろめたさを感じることはあっても、日本が直接責任を負うのかというとそれは違うように思うのですが、この映画では、発注者である日本軍が責任を負うべきだという議論なんですよ。そもそも公娼制度を敷衍した、公式の慰安所を作ってしまったところに、そういうことを言われる遠因があるのでしょうが、全ての諸悪の原因を、日本に集約させようとする慰安婦像を、素直に平和と祈りの像とは考えにくいです。そう思うのは、テレビで韓国での反日パフォーマンスを何度も観ているからで、慰安婦像も、そのパフォーマンスの一つとしか見えないということがあります。

慰安婦として悲惨な人生を送った女性がいたことは事実だと思います。その事実から、他の真実を導くにはやはり検証が客観的な視点が必要になると思います。でも、それってすごく難しいです。例えば、この映画に登場する右派の皆さんは、自分にとっての都合のよい事実を重視し、聞きたくない話は軽視するか、証拠不足を理由に否定しようとします。でも、これは右派も左派も人間なら誰しもやることだという認識に立たないと、真実には近づけないと思っています。特に過去にあったことの解釈には、自分の好み(倫理観とかイデオロギーとか)が入ることを踏まえて考えないと無自覚な偏見が含まれてしまいます。この映画でも、日本が実際に慰安婦に対してどこまで責任があるのかをはっきりと言わず、責任の所在を軽視しておいて、明らかに日本叩きに使われている慰安婦像を肯定している点では、右派の論理と大きな違いがないようにも見えます。

とは言え、従軍慰安婦問題の論点を整理してくれたという点で、この映画を高く評価したいです。まあ、右派や愛国者と言われる日本人にとっては不愉快な映画だと思いますが、それも、ある意味事実ですし。ただ、慰安婦像肯定派の論理の不備については当然言及していませんがら、そこはこの映画の中から読み取ることになります。また、デザキ監督は、慰安婦問題から、今の安倍政権や日本会議の改憲問題にまで言及し、かつての日本国憲法を復活させたい連中が、過去の日本の恥を隠したいから、慰安婦問題に対して否定的な立場を取り、否定的なキャンペーンや展開しているのだと言い、「憲法改正して、軍備拡張して、アメリカの戦争に巻き込まれてもいいの?」というメッセージで映画は終わります。ああ、なるほど、そういう話だったのかと最後に気づくことになります。要は、慰安婦問題がどこまで本当でどこまで怪しいのかという点はどうでもよくって、慰安婦問題を否定する日本の右翼が台頭している日本はヤバイですよというのが本筋だったようです。

この映画はドキュメンタリー映画ですが、明らかな政治的な意図を持った映画で、その意図に沿った形で、映像の選択、編集がされていますし、最後には、「慰安婦像を設置しようよ」キャンペーンの側面も出てきます。でも、そういうドキュメンタリーを偏向しているとは思いません。何の意図もなしに政治ドキュメンタリーなんて作れませんし、何も訴えない政治ドキュメンタリーなんて面白くないでしょうから。私は、この映画に、共感するところもありましたし、反対だと思うところもありましたが、でもこの映画、面白いかったです。特に、過去の事実を証明することの困難さを再認識できたのは大きかったです。当事者の証言だけでは、全体像は見えないんだなあって。
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Yahooブログから引っ越してきました。静岡出身の横浜市民で映画とサントラのファンです。よろしくお願いいたします。

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