「ブラッド・ダイヤモンド」に見るアメリカ映画の底力

川崎チネチッタ4で「ブラッド・ダイヤモンド」を観てきました。こういうメジャー映画は本当なら藤沢オデオンで観るところなんですが、返す返すも閉館がこたえています。

アフリカはシエラレオネでダイヤモンドの密売をやっているダニー(レオナルド・ディカプリオ)はつかまった留置場でピンクダイヤを持ち出した男がいると聞き、その男ソロモン(ジャイモン・フンスー)をマークしますが、ソロモンは革命統一戦線に拉致されていた時にダイヤを見つけていたのです。そして、彼は生き別れた家族を探していました。ダニーは知り合ったジャーナリスト、マディ(ジェニファー・コネリー)のコネでソロモンの妻と娘が無事なのを確認しますが、息子はさらわれたまま、生死不明になっていました。実は、息子のディアは革命統一戦線による洗脳と訓練により少年兵士となっていたのです。果たして、ソロモンは息子を見つけ出すことができるのか、そしてピンクダイヤの行方は?

1990年代の内戦状態にあったシエラレオネを舞台に、ダイヤモンドを巡る争奪戦を描いたアクション活劇です。ただし、そこにアフリカの現状をハードに盛り込んでいて、エドワード・ズウィック監督は様々な問題提示をしながら、娯楽映画としてのクオリティを落とさないで一本の作品に仕上げることに成功しています。

冒頭で、村が反政府軍であるところの革命統一戦線に襲撃されるところがまずショッキングです。理不尽な殺人、暴力。ある者は手を切り落とされ、ある者はダイヤ採掘の強制労働にかりだされます。とても、現代の出来事とは思えないのですが、これがつい20年前に起こっていた、ひょっとして、今も起こっているのかもしれないと思うとぞっとするものがあります。

映画は、ダイヤの密輸をするダニーが密輸に失敗して逮捕されるシーンになります。彼は色々とコネがあるようで、元傭兵としても重宝されていたようなのです。最初はどういう人間なのかよくわからないまま、彼がピンクダイヤを手に入れるべく、ソロモンを釈放させて後を付け回すという展開になります。主人公であるダニーがヒーローっぽくないので、子を思うソロモンの方に感情移入してしまうドラマ作りになっています。しかし、ドラマの展開に連れて、ダニーはもともとアフリカ生まれの白人であり、両親は殺されていることがわかってきます。彼は部外者でない、アフリカの当事者の一人だったのです。このあたりから、ドラマに重みが出てきまして、最終的に、彼はアフリカに生きる者として、行動を選択します。得体の知れない男がラストでヒーローになる結末はやや唐突でもあるのですが、ホロリとさせる趣向もあり、ストレートなヒーローでないところがディカプリオのキャラにうまくはまりました。

メインのドラマに並行して、ソロモンの息子が少年兵士にされていく様も描かれるのですが、これがリアルに不快でした。漁師や農民を蔑むように洗脳され、兵士は偉いのだと教え込まれ、度胸試しで人を殺させ、果ては麻薬で感性をマヒさせる。自我が未確立な子供であればあるほど、その洗脳プログラムにやすやすとはまってしまうのでしょう。そして、10歳かそこらの子供に機関銃を与え、虐殺の指揮までさせるというのは、まさに悪魔の所業です。しかし、そのリーダーに、自分は悪魔だ、だから地獄にいるんだと言わせるあたり、単に善悪で割り切ることが難しい現実が見えてくるのです。地獄の中での手段を選ばぬ弱肉強食の図式は、平和な日本の中では理解しにくいものだと気付かされます。

しかし、そのヘビーな題材だけで見せる映画ではありません。これは最初にも書いたようにアクション活劇としてもよくできていまして、中盤、街頭に突然反政府軍が現れて銃を乱射し、政府軍との銃撃戦となって、その中を主人公二人が逃げまわるシーンは、激しく動き回るキャメラの臨場感もあって、大変迫力ある見せ場になっていました。その他、クライマックスの爆撃シーンなど、娯楽映画としての見せ場もきっちりと押さえているのです。むしろ、まず娯楽映画として成立させた後で、問題提起を上乗せしているように見えるのが、すごいと思いました。

アメリカ映画の場合、シリアスなテーマを持った作品でも、まず娯楽映画としての面白さを作ってそこにさらにテーマを乗せるという作り方をしているものが結構ありまして、それこそが、映画を作り続けてきたハリウッドの底力を感じさせるパワーだと思うのです。この映画でも、冒険活劇としてしっかりとツボを押さえる一方で、メッセージや問題提起がことさら前面に出ることをあえて避けているようなのです。でも、そのおかげで、多くの観客がこの映画を娯楽映画として観て、最終的に、多くの人にメッセージが届くわけで、こういう作りのうまさは、アメリカ映画に一日の長があると思います。

主役二人の影に隠れた感もありますが、ジャーナリストを演じたジェニファー・コネリーが強さとしなやかさを見せて大変よかったと思います。彼女だからこそ、少ない出番の中で、恋愛感情を醸し出すのに成功できたのではないかしら。エドゥアルド・セラのキャメラが、アフリカの広大さと、リアルな暴力シーンの両方を、異なる絵の見せ方でめりはりをつけているのが印象的でした。

ここで描かれる虐殺や洗脳には、想像を絶するものがあるのですが、これらを「信じられない」で片付けてはいけないと思います。実際に、人間はそういうことをする、同じ人間なんだから、自分たちだって、その可能性を持っていることを認識して、学習すべきだと思います。また、ダイヤモンドそのものが悪いという話でもないことも記憶に留めておくべきです。

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No title

かりおかさん、コメント&TBありがとうございます。当初は冒険アクションものだったのですか。では、少年兵のくだりは後から付け足されたものかもしれませんね。日本だって、かつては「子供に兵隊さんになりたい」という教育をしていたのですから、程度の差こそあれ対岸の火事ではなさそうです。

No title

最初は単なるアフリカが舞台の冒険活劇の企画だったらしいですが、監督がもっと深くアフリカを描きたく、このような映画になったらしいですね。だからこそ出演したレオの意識の高さが素晴らしいと思いました。少年兵の話は紛争地帯では出てきますね。この前もロシアの少年兵の教育のドキュメンタリーをテレビで観て、ぞっとしました。南米の少年ギャングの話「シティ・オブ・ゴッド」もこの映画見ながら思い出しました。TBお返ししますね。

No title

pu-koさん、コメントありがとうございます。レオとジェニファーの関係は、ジャニファーがママっぽいポジションになってると思いました。そういう関係だったからこそ、ラストの電話が湿っぽくならなかったのではないかと。

No title

見所満載の娯楽映画に仕上げながら、アフリカの現状を伝えることに成功していましたね。レオとジェニファーの関係も心地よいものでした。
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Yahooブログから引っ越してきました。静岡出身の横浜市民で映画とサントラのファンです。よろしくお願いいたします。

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