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「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」はドキドキハラハラするけど、娯楽映画としてのカタルシスが薄くて苦手。


今回は、新作の「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」を川崎の川崎チネチッタ11で観てきました。傾斜の大劇場の作りでスクリーンも大きめ、シネスコになるときは若干上下が縮まる作りです。

タイのバンコク、すごく勉強のできる女の子リン(テュティモン・ジョンジャルーンスックソン)が、有名な進学校に授業料と昼食料を学校負担といういい待遇で入学します。真面目なリンとは、真逆キャラのグレース(イッサヤー・ホースワン)という友達もできて、そこそこの学校生活を送るのですが、ある日、勉強がまるきりダメのグレースから勉強を教えてと泣きつかれて、勉強を教えるようになります。で、テストの日を迎えるのですが、頭真っ白になっちゃたグレースを見て、リンは答えを消しゴムに書いて彼女に渡します。そのおかげ成績も上がったグレースはそのことを金持ちの恋人パット(ティーラドン・スパパンビンヨー)に話したことで、パットやその友人たちへもカンニングの手助けを求められてしまいます。一人一教科3000バーツ払うという話に乗ったリンは、テストの答えをピアノを弾く指の動きで伝えることを思いつき、やってみたら大成功。そんなこを続けて、稼いでいたリンですが、成績は優秀で、同じ奨学生のバンク(チャーノン・サンティナトーンクン)と共に留学生の候補になるのですが、あるテストで、リンが答案を他の生徒に見せてたことを目撃され、そのことを密告されて、留学生の資格を失ってしまいます。一方、パットがアメリカ留学のためにSTICという国際的一斉統一試験に合格しなくてはならなくなり、さらに勉強を教えてることになっていたグレースも一緒に受験することになり、何とかしてくれと、リンは泣きつかれちゃいます。試験が、世界中で実施されることから、時差に目をつけた、大掛かりなカンニング作戦を思いつき、20人の顧客も集めて大金を儲けようということになるのですが、その実現には、バンクの協力も必要となります。しかし、彼はそういう話には乗ってきません。ところがある事件が発生して事態は変わってくるのでした。

2017年のタイ国内興収第1位となり、タイのアカデミー賞で12部門取って、各国の映画祭でも賞を取ってるんですって。アメリカのファンタスティック・フェスティバルで最優秀スリラー作品賞まで取ってるってのが解せないんですが、ともあれ、世界で結構評価の高い映画です。ナウタット・ブーンビリヤとタニーダ・ハンタウィーワッタナー、ワスドーン・ビヤロンナが脚本を書き、ブーンビリヤがメガホンを取りました。進学校に優待されて入学したリンというものすごく勉強のできる女の子が、友人にテストをカンニングされたことから、その彼氏や友人までカンニングさせることになり、結構お金も儲けるようになるというお話。最初は、そういうことをする気はなかったようなんですが、偉そうなことを言ってた学校が、親から何かと寄付金をむしり取っていたことを知り、そんなら私もと思っちゃったのか、思春期の反体制的ツッパリなのか、お金をもらってカンニングしてどこが悪いと言う気分になっちゃったみたいなんです。映画はその女の子の心の揺らぎよりも、むしろカンニングのサスペンスを中心に展開します。色味を排したクールな映像と、テンポのよい展開は、サスペンスものみたいな味わいでお話が進むのですが、ラストは結構意外なところに着地することになります。

ヒロインのリンはとにかく勉強ができる女の子ですが、離婚した父親と二人暮らし。堅物の父親なんですが、家にはあまりお金がない。ですから、あまり気の進まない有名進学校への転校の決め手も経済的な優待というところにありました。そんな彼女が、たまたま困っていた親友を助けたばかりに、有料でテストのカンニングを依頼されて、その話を割と簡単に受けちゃうところは面白いと思いました。かなりリスキーな話なのですが、こういうことがばれても、タイだと本人にそれほどのダメージにはならないかな。日本だったら、エリートコースの先の裕福な人生を想定するから、キャリアの傷になりそうなことにはあまり手を出さないです。サークルやSNSでバカをするお調子者を除けば、お金になるからと言って、カンニングに精を出す超エリートというのは、ギャグマンガでしか見かけないキャラかも。一応、わいろを取る学校への義憤めいたことも言うんですが、カンニングそのものへの罪悪感はほとんどありません。私の若い頃は、周囲では万引きへの罪悪感がすごく希薄だったんですが、リンたちにとってのカンニングも似たようなレベルのものなのかな。このあたりの微妙な倫理感とかエリート意識が、ちょっと面白いと思ったのですが、おっさんの私からすると、それがカルチャーギャップなのか、ジェネレーションギャップなのかがわからないのがちょっと悲しい。

カンニングのシーンは、スリリングな演出で、テンションあがります。次々に発生するトラブルにどう対処するのかというところが見せ場になっています。ただ、その盛り上がりがカタルシスにまでつながらないのは、リンのキャラをこっちがつかみかねていて、共感に至らないのですよ。これは、おっさんの私だからかもしれません。若い人なら、もっと素直にリンに感情移入できて、楽しめるのかも。また、ちょっと面白いキャラなのが、最初堅物秀才で登場するバンクでして、最初は真面目キャラなんだけど、友人のカンニングを先生にチクるあたりは、私世代的には、イヤなインテリタイプ。昔の、学園ドラマの典型的な敵役みたいなキャラなんですが、チンピラに絡まれて留学がパーになったあたりから、段々とやさぐれてくるのが、何だか気の毒な展開となります。共感しにくい一方で、なかなか一筋縄ではいかないキャラの成り行きもまた一興です。



この先は結末に触れますのでご注意ください。



バンクは、留学試験の前日、ヤクザに絡まれて、ボコボコにされた挙句にゴミ捨て場に置き去りにされ、留学の機会を逃してしまいます。それもあってリンの計画に乗ってくるのですが、パットが口を滑らせたせいで、ヤクザがパットの差し金であることが判明、喧嘩別れとなってしまうのですが、結局、バンクは金のためにリンと一緒にシドニーでの試験に乗り込みます。リンの計画とは、シドニーで受験した結果の答えをスマホで、バンコクに送り、その答えを仕込んだカンニング鉛筆をその場で作って、他の受験者に渡そうというものでした。試験問題流出があったせいで、試験場は不正チェックでピリピリしていました。試験場にスマホを持ち込めないので、試験の休憩時間にトイレでメールを打つのですが、長い時間のトイレを疑われたバンクが試験官につかまってしまい、リンが一人で二人分の試験を解いて回答を暗記してメールすることになっちゃいます。リンも疑いの目を向けられながら何とか乗り切り、全問の答えを送信することに成功します。バンコクに戻ったリンに、バンクはもっとやって儲けようと脅迫してきますが、リンはそれを拒否。父親とともに全てを告白することを決意するのでした。その取調室にリンが入っていくところでフェードアウト、エンドクレジット。

シドニーでのカンニング作戦は、リンとバンクが試験の半分ずつを受け持って、回答を暗記してトイレでスマホから送信するというものでしたが、途中でバンクがつかまってしまい、一人でリンが全部暗記することになっちゃいます。さらに、リンも疑われて試験官に地下鉄の駅まで追跡され、それまでに答えを全て送信できるかどうかのサスペンスがなかなかに盛り上がります。やっとこ、うまいこと行ったのですが、リンは自分のやったことに後悔しちゃうってのが面白いと思いました。一方のバンクはこのビジネスでもっと儲けるんだと意気込むという展開は意外でした。事の発端を作ったリンが、結局自分の行動を悔い改めようとし、最初は真面目で完全にリンの計画に巻き込まれたバンクが、悪の道へ走ろうとする皮肉。ちょっと見、バンクが悪役に見えちゃうけど、そもそもリンやパットのせいで、こんな世界規模のカンニングに巻き込まれてしまったわけで、本当に気の毒。運が悪いってのはこういうことだよなあ。カンニングをリンにせがむパットやグレースには同情の余地はないし、ゲーム感覚で金儲けするリンにも共感できないし、金に寝返るバンクにも感情移入できなくて、お話は面白いけど、テンションが上がる展開にはなりませんでした。堅物のリンのパパの存在は、リンの良心を呼び覚ます救いになっているのですが、せめてバンクにもそういう存在を与えてくれないと、何か救いのない話になっちゃうのですよ。そう思う自分は、古い倫理観にとらわれているのかもしれませんが、十代の若者が主人公なだけに、こういう話をピカレスクロマンとしては楽しめなくって。
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コメント

No title

einhorn2233
かずさん、コメント&TBありがとうございます。カンニングシーンのサスペンスはなかなか見応えがありました。でも、巻き込まれて人生狂ったバンクに何の救いもないのが釈然としなくて、後味は今イチだったのが残念でした。

No title

かず
これは面白かったですね~。
ハラハラドキドキ感はカンニングしている彼らの気持ちにリンクしているようでした。
実話というのも凄いですよね。
TBお願いします。
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