今昔映画館

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「フェアウェル」はホームドラマとカルチャーギャップをうまくまとめて中国の今が見える感じ。

フェアウェル

今回は新作の「フェアウェル」を川崎のTOHOシネマズ川崎2で観てきました。シネコンの中では定番の作りになっています。iコロナのせいで、1席置きの運用だったのが解除されつつありますが、観る方にとっては1席置きが快適だということに気づくと、続けて欲しいと思ってしまいます。

ニューヨークに父母と一緒に住む中国出身のビリー(オークワフィナ)はもう30.学芸員になるべく活動してきたのに不採用通知が来て落ち込んでいた時、中国にいる祖母ナイナイ(チャオ・シュウチェン)が肺がんのレベル4で余命3か月を宣告されてしまいます。しかし、親族が相談して、彼女にはがんのことを隠しておこうということで意見が一致。一方で、親族がみんな集まれるように、孫のハオハオの結婚式を前倒しにします。ビリーはおばあちゃん子であったこともあり、すぐ感情が顔に出るので、結婚式には呼ばないことにしたのですが、両親には黙って親族の集まるナイナイの家に押しかけてしまいます。ナイナイは元気そうで孫の結婚式を盛大にして仕切ろうとしています。ナイナイに歓迎されたビリーですが、アメリカ暮らしの長い彼女には、病気のことを本人に伝えないことに納得できません。一方で、中国ではお医者さんでさえ、本人に告知しないというスタンスをとっています。叔父からも病気のことを話さないように釘をさされるビリー。そして、いよいよ孫の結婚式の日を迎えることになるのでした。

北京生まれマイアミ育ちのルル・ワンが、自分の祖母を題材にして、脚本を書き、メガホンも取りました。資金的にはアメリカと中国の合作になりますが、ほとんどの撮影は中国の長春で行われたようです。アメリカでゴールデングローブ賞など、いくつかの賞も取っていて、評価の高い作品だそうで、私も題材の面白さに惹かれてスクリーンに臨みました。余命が見えた患者への対応が、アメリカと反対の中国文化を描いているところ、そして、その文化が必ずしも否定されるものではないというところがアメリカ人にも受けたのかなって気がします。日本人のオヤジである私にとっては、両方の言い分が実感として伝わってきて面白かったです。

当人へのがん告知は、私の幼い頃は、かなりハードルが高いものがあったという記憶があり、テレビのドラマでも当人には伝えないでおくというのがよくあったように思います。昔は、がん告知は死の宣告に近いものがあり、だからこそ、当人が落ち込まないように、家族がそれを隠しておくことがあったようです。それが、がんが治療可能なものになり、インフォームドコンセントが普及してくるに伴って、当人への告知もされるようになってきました。アメリカは個人の権利を重視する文化があるせいか、元からがんの告知は当たり前のようです。この映画の中でナイナイの親族が、がんのことを彼女から隠そうとする理由として、告知すれば、病気よりも恐怖で死んでしまうからというあたりは、私のような古い人間からはすごく納得できることがあります。また、中国では、人は個人というよりは、社会や家族の一部なんだというところも出てきます。ここは、戦後教育を受けてきた自分にはちょっと承服しかねるところがあります。自分がそういう微妙なポジションにいるせいでしょうか、この映画のヒロインと、他の親族との考え方のすり合わせが難しいってところが、すっと理解できるのですよ。若い人からすると、がんであることを隠すナイナイの親族が悪役に見えちゃったりするのかなあってところが気になりました。ここに登場する人々は、みんなナイナイのことが好きで彼女のことを想っているのですが、それでも、ヒロインと中国の親族の文化の土台が違うってところが、結構シビアで深い話になっています。でも、ドラマは基本はコミカルに展開しますし、涙を流すシーンはあっても愁嘆場は見せません。ですので、観ている間に、ヘビーな気分になることなく、最後まで楽しむことができました。

また、映画にしては、親族そろって食事するシーンが多く、昔の日本のホームドラマを思い出しました。当時のホームドラマは家族そろって食事して会話するシーンが必ず登場したのですが、最近のドラマではあまり見なくなりました。食事のシーンはむしろ家族関係の気まずさを表現するためにくらいしか出てきません。この映画の中での食事のシーンは、ナイナイに病気のことを隠そうとするコミカルな見せ場としての役割と、同じ中国人でも中国を出た人間と中国に留まった人間のカルチャーギャップを見せるために登場します。作り手がアメリカ在住なのからか、双方をどちらかに加担することなく、公平に描いているのが面白いと思いました。これが内地の人の映画なら、母国を棄てた中国人として、ヒロインやその家族を描いたのではないかしら。また、結婚式のシーンでスタッフがタバコ吸ってたり、親族が料理を食べるカットが多く入るのが印象的でした。何て言うのかな、中国の人々の姿を第三者の目線でスケッチしたような絵作りなのですが、それが作り手から見て新鮮だったのかなって気がします。ドラマとは全然関係ないのに、一般の人々の映像をたくさん盛り込んでいるのは、異邦人目線で、自分たちのありようを記録しようとしているようでもありました。

ナイナイのがん告知にまつわるストーリーがメインですが、一方で、幼い頃は中国にいたのに、両親と一緒にアメリカへ移住したビリーの視点も丁寧に描かれています。長春の町も大きく様変わりして、かつて自分が住んでいたところも、大きく変わってしまっていて、自分の家がどこにあったのかもわからない状態。日本でも、田舎から東京に出てきた地方人が久々に帰郷した時に感じる何とも言えない感情が、この映画には描かれていて、地方出身者である自分にも共感できるところが多かったです。特にビリーの住んでいた長春は発展が目覚ましいようで、すっかり変わってしまった街並みを見るビリーの視線には、あるある感を感じてしまいました。何て言うのかな、故郷を離れて暮らす人ならではの孤独感のようなものが映画のあちこちから感じられたのですよ。そう思うと、東京なんて孤独感の集合体だということになるのですが、それって腑に落ちるものがあります。個人は家族や社会の一部であるという中国の考え方も、都市化が進むことによって、個人へ重きを置く方へ移っていくんだろうなという予感です。そういう意味では、中国のある時代を切り取った映画として、後年にまた評価されることになるかもしれません。

演技陣では、ナイナイを演じたチャオ・シュウチェンの気丈でやさしいおばあちゃんぶりが見事でした。きっと若い頃は美人さんだったんだろうなあと思わせる品のある老婦人ぶりが、この題材が持つ生臭さをうまく消して、とっつきやすいドラマにしているように思います。ビリーを演じたオークワフィナがもう30なのに、小娘みたいなキャラになっているのが面白く、両親を演じたツィ・マーとダイアナ・リンは、アメリカに渡ったことについて、引け目と優越感の両方を持っている感じをうまく演じています。また、ナイナイの姉を演じたルー・ホンが中国の文化を代表するような存在感を見せて印象的でした。彼女が「病気のことは、彼女に死期が迫ったときに自分が告げる」と言い切るときの説得力が見事でした。

ルル・ワンの演出は、雀の扱いとか若干アートっぽい雰囲気を出しつつ、家族の会話のリアリティをうまく見せて、ラストで、これがおばあちゃんとの最後の別れになるんだというところをの情感を見事に描き出しました。素直に見ても、斜に構えて見ても楽しめる映画になっていますので、機会があれば、一見をおススメします。


この先は結末に触れますのでご注意ください。


ナイナイが病院に行ったと聞いて、ビリーたちはびっくり。家族総出で病院に行きますが、単に薬を変えてもらうだけど聞いて一安心。イギリス帰りの病院の医師も、がんのことを隠すことに賛成で、そのことに加担しているみたいです。新郎ハオハオの相手は日本人で、いつもニコニコしてるもんだから、ナイナイからバカなんじゃない?とか言われちゃいますが、言葉のわからない中国でそれなりに大変そう。そんなこんなで、結婚式の日が来て、たくさんの親族が集まって、若いカップルを祝福しますが、その大半はナイナイの病気のことは知りません。結婚式も無事に終わり、ビリーと両親のタクシーを見送るナイナイはちょっと寂しそう。ビリーにとっては、これが最後のお別れとなるのですから、さらに心境複雑。それでもニューヨークに戻って普段の生活が始まるのでした。で、ラストで突然謎のおばあちゃん登場、あれから6年まだ生きてますって。で、フェードアウト、エンドクレジット。

最後の謎のおばあちゃんは監督の祖母なのかなって気もしたのですが、本当のところはよくわかりません。ともあれ、ビリーと両親は、ナイナイとそして故郷の長春に別れを告げて、ニューヨークへと戻ります。監督の、故郷や親族とどこかでつながっていたい気持ちがビリーのラストカットに表されているようですが、そこは劇場でご確認ください。現代の日本では、がんの告知を家族が隠すというドラマは作られないでしょうし、個人の尊厳より、家族や社会といった血縁、地縁を重視するような文化を肯定するドラマにはならないでしょう。それだけに、今の中国には、様々な価値観が右往左往しているのかもしれません。そして、それを両方とも飲み込むだけの懐の深さがあるのかもしれないと思わせる映画でした。
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コメント

木蓮さん、コメントありがとうございます。

私も、イメージカットとか、鳥とかは、思わせぶり以上のものを感じ取ることができませんでした。でも、共感できるところが多かったので、この映画のポイントはかなり高いです。他人事じゃない感覚もあったのですが、かつての日本が通ってきた道を中国も進みつつあるんだなあってところが大変面白いと思いました。それがいいことなのか、悪いことなのか、難しいところもあるんですが、国家の力が大変強い中国で、都市化や、個人重視の価値観がどう広がり、根づいていくのか気になるところです。そのとっかかりの瞬間を捉えた映画として、後世、歴史的な価値が出るかも。

話題作だったのでハードル上がってたのかも

どんでん返しでもあるのかと思えばそうでもなくて(6年生きてるおばあちゃんがどんでん返しな気もするけれど)。
自然な展開なのが逆に良かったとは思います。
今の中国が少し見えた気がします。
ラストシーンもですが、鳥とか夢(?)とか印象的なシーンの説明が全く無いのが潔いのか?ちょっと物足りない気もしました。
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Author : einhorn2233

Yahooブログから引っ越してきました。静岡出身の横浜市民で映画とサントラのファンです。よろしくお願いいたします。

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