今昔映画館

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「ステージ・マザー」はLGBTものではなく、母と子の絆の映画でした。コメディとして楽しく仕上がっててオススメ。

ステージマザー

今回は新作の「ステージ・マザー」を横浜みなとみらいのKinoCINEMA横浜みなとみらいシアター3で観てきました。ここはいつも空いてるという印象だったのですが、今回、結構なお客さんの入りでびっくり。そんなに話題になってましたかしら、「ステージ・マザー」。

テキサスの田舎町で、教会の聖歌隊の指導をしているメイベリン(ジャッキー・ウィーヴァー)のもとに、息子リッキーの訃報が届きます。リッキーはゲイであることで家を出て、サンフランシスコでゲイバーを経営していました。葬式に行ってみればドラッグクイーンたちが歌い踊るミュージカル大会。リッキーと暮らしていたネイサン(エイドリアン・グレニアー)はメイベリンに冷たい態度で「彼の全てを奪いに来たのか」と喧嘩腰。通りかかったリッキーの友人シエナ(ルーシー・リュー)から、リッキーのことや店のことを聞き、店の相続権は親にあることを知り、どんな店かを観に行きます。ゲイバー「パンドラの函」はあまり流行っているとは言えず、リッキーが亡くなり、人気ダンサーも見切りをつけて店をやめていきます。そんな様子を見たメイベリンは、自分が2か月間オーナーをすると宣言、ネイサンは大反発。でも、メイベリンは、出し物の口パクの歌振り芸をやめて、実際に彼らに歌わせようと言い、自分が歌唱指導をやると宣言。さらに、サンフランシスコに観光に来る客も取り込もうということで、ホテルに宣伝の依頼に行き、そこで老コンシェルジェのオーガストと知り合いになり、いい雰囲気になります。一方、店の方は、ダンサーたちのもともとの歌唱力もあって、新しい出し物が大当たり。店は大入りで、経営状態も右肩上がり。メイベリンは、ドラッグにはまっていたジョーンズから薬を取り上げたり、関係が最悪のテキーラと母親の間を取り持ったりしているうちに、改めて息子の残したものの意味を再認識するのでした。そんなところへ、夫のジェブが訪ねてくるのでした。

ブラッド・ヘンニグとトム・フィッツジェラルドの共同脚本を、フィッツジェラルドが演出したコメディです。LGBTを扱った人間ドラマと言ってもいいお話ではあるのですが、これは元気が出るコメディとして楽しむのがおススメです。映画はサンフランシスコのゲイバーのショーでリッキーが倒れるシーンから始まり、そこでテキサスの田舎町のパブテスト協会で聖歌隊を指導するメイベリンのシーンになります。何だか今一つやる気がないメイベリンですが、息子の訃報を聞いて、夫の反対を押し切って単身サンフランシスコに向かいます。そして、あれやこれやで、リッキーのゲイバーの再建に、乗り出すことになっちゃうどうやら、息子との間は長い間、断絶があったようなんですが、でも、その間も息子と母親の絆はつながっていたことが段々わかってくるという展開は、ホロリとさせられるものがありました。とは言え、メインのストーリーとなるのは、口パクのショーに甘んじていたゲイバーの出し物を、リアル歌唱に変えることで、傾きかけの店を再建するというもの。でも、この映画は、ドラマのあちこちに省略とかスキップを入れて、ドラマチックな成功話にしていないところが面白いところです。むしろ、ずっとテーマとして母と子の絆をあちこちで見せておいて、最後も母子の絆にまとめあげるというのがうまい。最初の発端だけかと思っていた、メイベリンとリッキーの母子の絆が、映画の中でだんだんと深まっていくというのを、さらりと見せながら、そこを最後に歌い上げるあたりは、あーなるほどって感心。何度も登場するゲイバーのショーの歌が、登場人物の心情を表現するというベタな演出は、ミュージカルというより、歌謡曲映画という感じかもしれませんが、私は、音楽ものに弱いので、この素直な歌の演出には、ちょっと心動かされるものがありました。

一方で、こういう題材ではおなじみのLGBTがつらい思いをしているというところも描かれますが、ここはあまり深入りしてません。親子とか夫婦の関係がうまくいかなくなった理由くらいの扱いです。まあ、世間でもLGBTの認識は高まっているので、こういうコメディであまりシリアスに取り扱う必要はないのかなって気はします。「皆まで言わずとも皆さんよくご存じの」くらいの扱いになってきたのは、それだけ社会が成熟しつつあるということだと、私は好意的に解釈します。さらに、LGBTを笑い飛ばせるようになったら、文化として定着したことになるんでしょうけど、真面目な人は怒るから、なかなか笑いにできないんだよなあ。マイノリティ→弱い→笑う→嘲笑→イジメ→差別というお決まりの流れになってしまうのは、何とかならないかなあ。マイノリティだからって、弱いわけじゃないってところに行かないと、笑いにならないのかも。

メイベリンが、ゲイバーの面々のお母さん的なポジションになっていくところは、自然でいい感じの流れになっています。メイベリンにも、息子を理解してやれなかった後悔の念もあり、また、息子の残した店を何とかいい方向に持っていきたいという気持ちがありました。そのあたりをクローズアップすると、母もの映画の変化球ということもできましょう。泣かせる要素は、いくらでもあるストーリーですもの。でも、そういう葛藤やお涙頂戴的な部分は、省略とか描写のスキップで、具体的に見せないあたりの演出はうまいと思いました。ドラマチックな部分を、ショーの歌で表現しようとするのは、安直な気もしなくないですが、頭を使わないコメディとしては、そういう演出が成功していると思います。結構、歌の部分の尺が長く、情感も盛り上がるのですが、あくまでショーの歌であって、直接の愁嘆場ではないので、どろどろした後味を残さずに、娯楽映画に昇華することに成功しています。

演技陣は皆好演していますが、特にジャッキー・ウィーバーは70歳を越えてるそうですが、ウィットに富んだ女性を好感の持てるキャラで演じ切りました。故郷を去った息子が、それでも母親のことをずっと想ってたということの説得力を感じさせてお見事でした。また、極端な悪役としては描かれていないけど、結局息子を認められず、妻からも見放されるジェブを演じたアンソニー・スコルディの渋めの演技が印象的でした。



この先は結末に触れますのでご注意ください。



テキサスに戻って来いというジェブに、メイベリンは「店の権利を放棄するなら」という条件を出し、彼もそれを飲み、メイベリンはサンフランシスコを去ることになります。別れを惜しむ店のメンバーに、店の権利をネイサンに譲渡すると伝え、テキサスに帰っていくのでした。そして、また、元の生活に戻ったメイベリンですが、DVDでリッキーの踊る姿を観ていたら、ジェブが息子のことは忘れろと言われ、メイベリンは一気に吹っ切れて、家を出て、再びサンフランシスコへ戻っていきます。レコード店にいるオーガストに声をかけるメイベリンに、再会を喜ぶオーガスト。そして、なんと「パンドラの函」のショーに登場、息子への想いを込めた歌で、喝采を浴びるところでストップモーション、暗転、エンドクレジット。

メイベリンがテキサスへ帰るところで、映画は終わりだろうと思っていたら、まだその先があったのにはびっくり。結局、ダンナとはうまくいかなくて、サンフランシスコへ戻るというのは、明らかに映画の魔法だけど、そういう魔法がある映画はやっぱりコメディなんだなって納得しました。そして、最後の最後を母と子の絆で締めるのも、きっちりはまりました。母ものというと、最後は母と子が再会して、大団円になるのが普通なのですが、この映画では、映画の冒頭で当の息子が死んでしまうのですが、それでも、きちんと母ものとして決着させるというのは、かなりの変化球なのですが、それをコメディの枠に入れて、娯楽映画にまとめあげるあたり、監督の才能を感じました。ともあれ、笑えて楽しい映画に仕上がっていますので、元気のない時なんかにおススメできる一編です。
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コメント

pu-koさん、コメントありがとうございます。

これは、コメディであり、恋愛ものであり、家族のドラマでもあり、成功物語でもあり、その辺をうまく調合した娯楽映画として、よくできた映画だと思います。観ると元気が出るタイプの映画ですから、オススメしちゃいます。一番の悲しいシーン、息子の死を冒頭に持ってくるということで、右肩上がりの展開になっていく構成もうまいですし、その息子へはなむけをラストに持ってきて、ドラマとしてもちゃんと完結させるのも見事でした。

ジャッキー・ウィーヴァーは怖い役もコミカルな役も幅広く演じる女優さんですね。
あたたかいコメディの秀作、こういうのを今観たいです。
ちなみにテキサスの田舎なんかはまだまだはゲイに不寛容なので、パパがそんな風なのはキャラ付けとして納得できるところです。
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「ステージ・マザー」

家を出て長いこと経つ息子リッキーの訃報が入って来た。彼がゲイの道を選んだことによって家族と断絶し、一人サンフランシスコに住むようになってから、どの位の年月を夫と二人で過ごしてきただろう?これが普通の生活だと思っていた。頑固で自分の楽しみを優先する夫との生活は、「普通」なのだと。 案の定、息子の葬儀に夫は行かない、と言う。たった一人の息子なのに。いつもなら夫の意見に従っているのだが、今回ばかり...

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