今昔映画館

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「アウステルリッツ」は観光地化した収容所跡を延々と映すだけの映画なので、色々考えながらの鑑賞をお勧めします。

群衆

今回は新作の「アウステルリッツ」を横浜のシネマベティで観てきました。ここは、そこそこ年季の入ったミニシアターなんですが、100程度の座席数ですが、スクリーンが見上げる位置にあって、でも見づらくはなく、むしろ映画を観ているという実感が得られるよくできた映画館です。

ドイツのベルリン郊外にある元ナチスの強制収容所の跡地は、歴史のモニュメントとして、ドイツ人だけでなく、多くの国から人々を集めていました。ガイドに説明は、ドイツ語だけではなく、英語、スペイン語、イタリア語、フランス語が飛び交い。ツアーの中にも組み込まれているようです。その入口に掲げられた当時の看板「労働が自由を生む」が、見方によってはぞっとさせる感じもあります。でも、多くの観光客は、多くは笑顔でカメラを手に、収容所の中に入っていきます。ガイドたちによって語られるナチスによる虐殺・拷問といった事実に、顔をしかめるものもいます。収容所の一番奥にある、ガス室や焼却炉の頃になると、人々の表情にはさらに多種多様になっていくのでした。

ドキュメンタリー映画で有名な、ウクライナ出身のセルゲイ・ロズニッツァ監督の作品3本が「群衆」という言葉にまとめられて、一気に公開されていまして、その中の一本となります。2015年に撮影されたものだそうですが、映画は、1時間半ずっと強制収容所を訪れる人々を映すだけです。ストーリーなんてものはなく、ひたすら、人々を映し出すだけの映画。冒頭は入口付近で、これから見て回ろうという人々を映し出します。そして、収容所跡の中を見て回る人々から、後半は処刑場や焼却炉をガイドのかなりストレートな説明を聞きながら、見学している老若男女の姿を映すだけで、映画は終わります。もはや、観光地となって、ツアー客をひきつれたガイドが闊歩している場所としての、強制収容所跡地の姿を淡々と映し出すだけですので、それだけ眺めていると結構退屈な映画です。いろいろと過去と現在に思い巡らすきっかけは登場しますけど、ぼーっと観てると眠くなる映画かも。

戦争のモニュメントというと、日本ですと、広島の原爆ドームがまず思い浮かびます。原爆ドームは被害者視線のモニュメントですから、そこでは、悲惨な結果をもたらした原爆への反省と怒りの感情が喚起されます。一方で、この映画で登場する強制収容所は、ドイツ国内に存在するので、被害者視線ではなく、加害者視線で、おぞましい過去と向き合うことになるという、言い方は悪いですが、原爆ドームよりもハードなモニュメントだと言えましょう。外国から訪れる人もたくさんいるようですが、やはりドイツ人が観光に来る場所ということになるのかなあ。映画の冒頭では、ラフな恰好なみなさんが和気あいあいとした雰囲気で入口を入っていきます。まあ、こういう場所をどんな恰好で訪問するのがいいのかなんて、わからないけど、正装して行くところでもないですからね。音声ガイドを首から下げて何か聞いてる人もいて、歴史博物館みたいな趣なのかな。でも、広い敷地のアウトドアですから、行楽気分もやむなしかと。

収容所内の施設の中をぐるぐると観て回るのは、整備された遺跡の観光みたいな感じ。そんな中でガイドを連れたツアーと思しき皆さんが登場し、ガイドがいろいろな国の言葉で、そこであったことを説明するのですが、この内容がなかなかきつい。収容所ないの刑務所は拷問のためにあったとか、柱に後ろ手に何時間も吊るして苦痛で殺したとか、そんな説明の連続は、日本人の私にはかなりきついと感じられたのですが、向こうの人はどうなのかしら。私は広島は行ったことはないのですが、やはり原爆被害の惨状を説明されるのと同じようなものなのかなあ。直接、手を下した人間の悪意が見える分、収容所の方がきついと言ったら、広島の人に怒られてしまうかもしれませんね。この映画で登場する説明シーンの中でも、収容所で雑用係をさせられたゾンダーコマンドの最初の仕事は前任のゾンダーコマンドの死体の始末だったという話はきつかったです。ゾンダーコマンドに選ばれたら自分の命は後4か月だと宣告されたことになるんですって。それを知った上で収容所の死体処理といった仕事をこなしていったらしいです。(4か月というのは、映画の中でのガイドの説明でして、4か月と決まっていたわけではなく、その中でも特殊技能を持っていたりすると生き延びられることもあったそうです。)こんな話を聞くと「サウルの息子」の見方も変わってきそう。

でも、そういう説明で、だんだんと表情が曇っていく人も出てきて、一方でそうでもなさそうな人もいます。同じ場所を訪れても、感じ方は人それぞれではありますが、その過去の歴史を知ることは、かっこつけた言い方をすれば、未来への礎になるわけですから、観光地になっちゃったとしても、そこであったことが語りづがれることは意味のあることだと思います。特に、ナチスドイツが収容所でやったことについては、世界レベルで「これは最悪の狂気の沙汰」という共通認識がありますから、変なイデオロギーとか政治信条とかで、「これは陰謀だ、そんなことはなかった」なんて話になりにくいので、ほとんどの人が、ここから歴史の教訓を得ることができるのではないかしら。まあ、その教訓は人それぞれ異なるであろうことは想像がつきます。私なんかは、こういう環境でナチス側の人間として立ちあったら、何をするだろうってところを考えてしまいます。弱弱な自分は、何もできないだろうなあ、何もできないってことは、拷問や処刑をやってしまうんだろうかなんて、暗澹たる気分に落ち込みそう。

収容所の奥の方へいくと、処刑場とか死体焼却炉があって、またガイドさんのきつい説明が入って、どんどん見学者の顔がこわばっていくように見えます。説明で印象的だったのは、ここでどのくらいの人がどのように殺されたかについては、記録が償却されているので、正確なところはわからないんですって。正式な記録がないから、歴史とは言えないという議論も、過去にされたのかもしれません。でも、収容所跡という遺跡が語るものは、紙の上の文字以上のものがあるということなのでしょう。ラストは、収容所見学を終えて、出てくる人々を延々と映す長回しです。険しい顔をした人もいれば、いつもの日常の顔の人もいるし、いかにも行楽帰りの楽しそうな人もいます。色々な顔を映すことで、このモニュメントが人々に何を残すんだろうってところを考えさせて、映画は終わります。

直接メッセージを伝えてくるのではなく、観光地としての強制収容所跡と、そこを訪れる人々を映しただけの映画なので、そこから、何を感じ取るかは、観る人によって、大きく異なる映画です。過去のとんでもない歴史に思いを馳せる人もいるでしょうし、今、この歴史モニュメントから何を学ぶべきかを考える人もいるでしょう。こういう場所を物見遊山の場所にするのはよくないと不快に感じる人もいるかも。それぞれの感じ方ができるという点で、何かのきっかけになるかもしれない映画です。ただし、ぼーっと見てるとかなり退屈な映画なので、そこそこ元気な時に鑑賞することをお勧めします。
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Yahooブログから引っ越してきました。静岡出身の横浜市民で映画とサントラのファンです。よろしくお願いいたします。

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