今昔映画館

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「国葬」はスターリンの葬儀のドキュメンタリー、監督の意図するところは日本人の私には伝わりにくいようで。

群衆

今回は、新作の「国葬」を横浜の横浜シネマリンで観てきました。ちょっと前まで、シネマジャック&ベティで上映して、見逃してしまっていたのが、こっちにムーブオーバーされていて、劇場鑑賞することができました。映画館のこういう連携があるのは、観る方は大変ありがたいです。

1953年3月5日、ソ連の偉大な指導者であったスターリンが逝去しました。そのニュースは連邦国中に駆け巡り、国葬の様子は、連邦国中にラジオ放送され、多くの国民がそれを聞き入りました。市民は訃報の新聞を買う行列を作り、各々の土地のスターリン像に献花しています。各国からの代表参列者が集まり、国葬での最後の別れの場には軍人や市民などが行列を作っています。国民は、スターリンの死を悲しみをもって受け入れて、しかし、すぐに共産国家勝利のための戦いを始めるのでした。しかし、スターリンの時代、何千万という人間が拷問や粛清の被害者となり、餓死していました。そして、1956年のフルシチョフによるスターリン批判により、多くの社会主義国家に衝撃が走ることになるのでした。

ロシアのセルゲイ・ロズニツァ監督のドキュメンタリー3作品が「群衆」というタイトルで連続上映されました。その中の1本が、スターリンの死から国葬にいたる映像を再編集した「国葬」です。字幕も最後に、国葬後にスターリン批判が出たこと語るのみで、それ以上の説明は一切なく、後は、当時のソ連の映像のみで成り立っています。ただ、音響についてはかなり手が加わっているようで、クレジットでは、監督の次にサウンドデザイナーがクレジットされていまして、雑踏の音がかなりの音圧で迫ってくる音響設計になっています。監督が現場で聞こえただろう音を、後から追加もしているようです。個人的には、路面電車の音がすごく気になりましたもの。延々と人の顔が次々に出てくるだけの映画なので、音でインパクトつけないと観客が寝ちゃうと思ったのかな。私も中盤はかなり睡魔との闘いになりましたが、これは鼻炎の薬のせいかも。

ソ連の各共和国で、街頭ラジオ(なのかな?)に集まって、スターリンの逝去とか国葬の実況を聞いてるシーンが何度も登場します。どっかで観たことあるようなと思ったのですが、これって、日本の玉音放送を聞いてる国民の絵と似てる感じです。ラジオの音に涙ぐんじゃってる人もいるところも同じような感じ。なるほど、偉い人が亡くなったんだなあって感じ。80代以上の方なら、玉音放送、40代以上の方なら昭和天皇崩御の時と同じような感じと言ったら、伝わりますかしら。平成世代には、実感としては伝わりにくいと思います。でも、国中が注目して、国民全部が一体となって悲しむ雰囲気になったということは事実なようです。確かにスターリンによって、弾圧されたり粛清された人々もたくさんいたので、一人残らず悲しんだということはないでしょうし、また、これらの映像は、ソ連側の記録映画の元ネタになった映像アーカイブから選りすぐったものだそうなので、スターリンが死んで万歳している絵は当然ありません。

でも、この映画の分厚いパンフレットを読むと、監督は、この国全体が喪に服す様子に異常さを感じ取ったのだそうです。何が国民全部が同じ方向に向かせたことを考えるために作ったんですって。全体主義的なものに対する嫌悪感があるみたいで、多分、北朝鮮のマスゲーム観ても同じこと言うんだろうなあ。映画は、葬儀に並ぶ群衆とか、各地で街頭でラジオに聞き入る人々の表情を延々と追っていくだけなので、私には中盤はかなり退屈したのですが、その退屈した部分に、監督は異常さを感じていたみたい。昭和天皇崩御を経験した日本人の私からすると、それほど異常さは感じなかったのですが、平成世代には、監督と同じ感想を持つ人がいるのかもしれません。基本、村八分(火事と葬儀の2分は別格)という言葉にあるように、日本人は葬儀の時は、とりあえず過去のことはおいといて死者を悼む文化があるせいか、このスターリンの死に対する人々にそれほどの不自然さは感じませんでした。それに、多くの市民には「スターリン偉い」の教宣活動が行き届いていて、彼の悪行なんて微塵も流れない環境にいたのでしょうから、貧しい工場の労働者が泣いてるのも無理もないと思ってしまいました。

モスクワの葬儀の場には、多くの参列者がスターリンの最後の姿を見に行列しています。参列者は、軍人と市民が半々くらいでしょうか、市民の多くはいい服装をしていて、それなりの身分の人なのかも。葬儀を終えて棺は馬車で赤の広場まで運ばれ、そこで追悼集会が行われた後、レーニン廟に納められます。その広場を埋めつくす人々が整然と並んでいる様はすごいと感心しちゃいました。まるで絵にかいたように並んでいる何かが、ソ連軍の軍人が整列していたのだとわかった時は、かなりびっくり。市民もそこそこ整然としているけど、乱れず動かずに人の壁みたいになってるのは、私は感嘆しちゃうのですが、そのチョー整然さを不気味に思う人がいるのかもしれません。市民も整然と動いて、棺の馬車を出迎えるので、統制がとれてるなあと感心。宝塚の劇場前の出待ちファンの皆様を想像していただけるとわかりやすいかも。

映画は葬儀までは、リアルなドキュメントなんですが、その後、広場で弔砲が鳴らされ、駅の機関車とか港の船が弔笛を鳴らずシーンになると、急に宣伝映画っぽい演出というか作りこみが出てきます。多くの労働者が作業を中断して喪に服すというシーンなどいかにも作ったキリっとした表情がヤラセ感満載。それまでずっと淡々と見せてきた国葬が、急にラスト数分で嘘っぽく見えてくるというのは、監督が狙った構成なのかしら。映像アーカイブの中で、プロパガンダのために演出された映像で締めることで、見えにくかった監督の意図を明確にしたかったのかもしれません。日本人の私には、スターリンの国葬の映像にほとんど違和感を感じなかったので、むしろラスト数分の部分の方に違和感を感じてしまいましたから、そういう意味では、私はこの映画にうまく乗り切れなかったようです。

そうは言っても、スターリンの国葬の映像なんて、普段、観ることはできませんし、その当時の空気感を知ることができたという意味では、観てよかった映画ということになります。また、登場する人々の顔から、ソ連が多民族国家であることを再認識しましたし、追悼集会での演説から、民族問題がその当時のトピックスであったことを知ることができました。今回、「群衆」という言葉でまとめられた、ロズニツァ監督ノドキュメンタリー3本を観て、過去アーカイブを素材に面白いドキュメンタリー映画は作れるというのは発見でしたし、物語性を一切排除した「アウステルリッツ」のような映画もありなんだなあって、色々と発見もありました。ただ、淡々としすぎていて、家でDVDや配信で観るのには退屈な映画ではあります。こういう映画を意味あるものとして受け取るためには、映画館という場所は必要なのだと思い至りました。
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Yahooブログから引っ越してきました。静岡出身の横浜市民で映画とサントラのファンです。よろしくお願いいたします。

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