今昔映画館

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2021年のベストテンを作ってみました。

2021年は映画館はほぼ通常となりましたが、あまり多くの映画を観ることができませんでした。アメコミとCGアニメをお金を払って観る気がしなくて、そういう映画を避けていたら、観る本数が減ってしまったみたいです。それでも、観た映画の中からベストテンを選んでみました。その基準としては、映画としてちゃんとできていること、何かしらの発見のある映画がベストテンに上がっています。

第1位「ファーザー」
認知症の父親の視点で物語を展開していくというのがユニークな舞台劇の映画化でしたが、父親主観であることが明確になる映画というメディアに相応しい物語でした。主人公目線の世界をきっちりと描き切った演出が見事で、アンソニー・ホプキンスの後半の自分自身が信じられなくなっていく演技が素晴らしく、痴呆症がなぜ幼児返りするのかという絵解きもあって、見応えのある映画として、これが1位となります。

第2位「ウェンディとルーシー」
今年のオスカーレースを賑わわせた「ノマドランド」も素晴らしかったのですが、この映画の主人公であるウェンディは、「ノマドランド」のヒロインよりも、さらに孤独で、アメリカを漂泊するノマドでした。自ら、そういう生活を選択したのではなく、そうならざるを得なくて、お金もプライドもなく、職を求めて移動するウェンディの姿は、何とくなく生きてる自分には他人事ではない説得力と痛みが感じられました。誰も彼女の存在を認識していない、どこかへ消えても誰も気にしない、ヒロインを淡々と描いているのが見事でした。ケリー・ライカートという監督は特集企画が組まれるくらい注目されてるようですが、他の作品も気になってきました。

第3位「ブラックバード 家族が家族であるうちに」
デンマーク映画のリメイクだそうで、難病を扱った映画ですが、抑制を効かせた作りもさることながら、豪華な演技陣の名演技が映画としての厚みとなって、お金を取って劇場で観るのに相応しい映画。映画としての満足度としては今年一番だったと思います。オープニングからエピローグまでの無駄のない演出のうまさもありましたし、じっくりと役者の演技を捉えた撮影も見事で、隙のない映画という感じ。ケイト・ウィンスレットとサム・ニールの渋い熱演が特に光りました。

第4位「この世界に残されて」
ホロコーストの後日談の映画で、少女を主人公にした映画では、「さよなら、アドルフ」といった作品がありましたが、この映画では、収容所で壮絶な体験をして生き残った少女が、同じく収容所の生還者である医師とのつながりを通して、新しい人生へつつましくも力強く歩み始める姿を繊細に描きました。あえて修羅場や愁嘆場を描かない抑制された演出が、主人公二人の痛みと希望をバランスよく表現し、ホロコーストを題材にした映画でありながら、暖かい後味が残る映画としてオススメ度が高い一編です。

第5位「私は確信する」
冤罪らしいという殺人事件の裁判を描いた実話に基づくドラマです。知人の無罪を信じて奔走する主人公の独善性と正義の危うさを描いていて、ネット時代の今だからこそ、改めて観る価値のある映画。正義と憎悪は紙一重、正義は弱きを救わないとか、色々と示唆するところ多くて、たくさんの人に観て欲しいと思いましたです。

第6位「17歳の瞳に映る世界」
17歳の女の子が堕胎手術を受けるために友達と一緒に都会に行くお話。ドキュメンタリータッチの展開の中で、アメリカのセクハラ社会や保守化とか、どこの国も似たようなもんだというのがよくわかるとともに、アメリカにおける女性の立場ってまだこんなレベルなのかという発見もありました。さらに、日本で17歳の女の子がきちんとしたところで堕胎手術を受けるのはもっと大変なんだろうなって気づかされる映画。そういう社会や文化のお話を、青春映画風の作りの中でリアルに見せるあたりが、やっぱりアメリカってすごいかもという感心もしちゃうという、色々と面白い映画でした。

第7位「ブータン 山の教室」
世界一、幸福度の高い国と言われるブータンですが、そこにもグローバル化や価値観の変化の波が訪れているんだなあってのを描いたドラマです。若い世代と年取った世代の価値観の対立、都会と地方の価値観の違いなどが日本人の私にもわかりやすい形で描かれていて、共感度が高かった映画でした。あの美しい山の中の村も、日本と同じように限界集落化していくのかもと思うと切ない後味もありますが、この映画は、伝統を守ることだけを美化していないあたりに、今風の希望を感じることができました。

第8位「燃ゆる女の肖像」
とある島に住む女性の絵を描くように依頼された女流画家のお話。どこか寓話的で、美しくて幻想的な映像で、映画的興奮がある映画でした。同性愛を描いた映画ではあるのですが、ギリシャ神話を絡めたり、現地の民謡のような音楽を入れたり、島の風景をファンタジックに見せたりと、色々なアートな要素を乗っけて、観客を異世界へ引き込む作りがお見事。こういう映画を年に何本かは観たいよねって思わせる映画でした。

第9位「ウォーデン 消えた死刑囚」
このベストテンの中で、唯一の純粋エンタテイメント。刑務所の引っ越しの日、姿を消した死刑囚をめぐるミステリーとして、展開の面白さで楽しませてくれました。イランの映画だそうですが、娯楽映画として色々と作り込まれた部分が見事で、先の読めない展開と、探偵役となる刑務所長のキャラのおかしさで、一級の娯楽映画でした。

第10位「コレクティブ 国家の嘘」
ルーマニアのブカレストでのライブハウス火災に端を発して、次第に明らかになるルーマニア医療界の闇。ドキュメンタリーですけど、まず面白く作られていて、告発するジャーナリストだけでなく、状況を改善しようとする大臣にもスポットライトを当てて、事態の深刻さを明らかにするあたりがお見事。さらに、ラストで見せる、希望と絶望のないまぜな感じには、色々考えさせられました。目先のお金に吊られるとか、政治に関心のない若者ですとか、日本でもあてはまるところがあって、不正を正すアプローチって限界があるのかなって気づかされる映画でした。被害者を救う、次の被害者を出さないようにする視点って重要なんだなって。

ベストテンから外れた映画では、実録ドラマとして見応えがあった「モーリタニアン 黒塗りの記録」「ダーク・ウォーターズ」といった作品や、奇妙な味わいの「恋する遊園地」「天国にちがいない」といった作品が印象的でした。ラブコメも「ラブ・セカンド・サイト」「カプリス」が楽しかったのですが、残念ながら選からもれてしまいました。

この後は例年のピンポイントベスト5を挙げます。

第1位「片肺の魚」の一般興行での劇場鑑賞
トランスジェンダーを扱った「片肺の魚」は35分の長さでしたが、横浜シネマリンという映画館での通常興行で鑑賞することができました。内容については、色々と考えさせられるところが多く、良くも悪くも、トランスジェンダーへの意識を深めることができた、意味のある鑑賞でした。かつて、ドキュメンタリー映画がシネマジャック&ベティやシネマリンの通常興行で観ることができるようになったのもありがたい出来事でしたけど、こういう尺の映画を映画館で観ることができるようになったというのも同様に映画鑑賞の幅が広がって、ありがたい展開だと思います。

第2位 長い映画が多すぎると思ったら短い映画も
最新作の007とかマトリックスとか、みんな2時間半以上。シネコンのメジャー映画がなぜか長くなる傾向があります。昔の2時間半を超える映画は、文芸大作とか歴史劇みたいなものと相場が決まっていたのですが、最近はアメコミやアクションのシリーズもので、2時間半を超える映画が登場してきて、その長さに腰が引けてしまっています。映画館の椅子がよくなったので、2時間半の長丁場でも文句が出なくなったってこともあるのかも。(昔の映画館の椅子は2時間超えるとお尻が痛くなりましたもの、特に名画座系。)でも一方で1時間半を切る映画もそこそこ公開されるようになってきまして、「スザンヌ16歳」が77分、「トムボーイ」が82分と、上映時間が短いだけで食指が動くという私のような人間には、そんな理由で映画を観る機会が増えてきたのはありがたいです。

第3位「アンモナイトの目覚め」「ブラックバード 家族が家族であるうちに」のケイト・ウィンスレット
2021年の女優陣は豊作でした。(とは言え、アメリカのメジャー系は未見なんですが。)「恋する遊園地」「燃ゆる女の肖像」のノエミ・メルラン、「秘密への招待状」「ウェンディとルーシー」のミシェル・ウィリアムス、「スイング・ステート」のマッケンジー・デイビスとローラ・バーン、「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」のレア・セドゥとアナ・デ・アルマス、「スザンヌ16歳」で脚本・監督・主演のスザンヌ・ランドン、「アンモナイトの目覚め」のシアーシャ・ローナン、「ブラックバード 家族が家族であるうちに」のミア・ワシコウスカ、「カプリス」のアナイス・ドゥムースティエなどが印象的でしたけど、主役を熱演した迫力と脇に回ったうまさの両方を見せてくれたケイト・ウィンスレットが2021年のナンバーワン女優さんでした。この人の出る映画にハズレがないってところもすごい。

第4位「いまはむかし」「カウラは忘れない」に見える、大東亜戦争ドキュメンタリーの新しい展開
2000年前後の大東亜戦争ドキュメンタリーは、とにかく体験者の証言を映像にとどめておかなければというところが主眼だったように思います。体験を語れる方の年齢的な限界から、そういう視点での記録映像を作られたのでしょうし、その意義は非常に大きいものでした。しかし、ご存命の証言できる方がだんだんいなくなってきたこの頃、戦時中の映像やちょっと前の証言ビデオなどから、今の人たちがどう受け取るのかを描くドキュメンタリーにシフトしてきているようです。あったことを証言で残すことから、その証言をどう解釈して、どう戦争を語り伝えるかという方向にドキュメンタリーの視点が変わってきたことが感じられたのは発見でした。

第5位「また、あなたとブッククラブで」に見る70代女子の登場。
2014年に「グロリアの青春」という映画を観た時、いよいよ50代女子の時代が来たという記事を書いたのですが、今年の「また、あなたとブッククラブで」では、仕事に恋に現役の70代女子が登場して、いよいよそこまで来たかという感じ。ダイアン・キートンやジェーン・フォンダは特別なセレブだからでは終わらせられない、これも時代の流れなのだと思います。女性は元気あるなあと思う一方で、私は誰からも男性と意識されないオヤジになってしまってたんだなあってしみじみ。男性陣も元気出して行かないと。

そんな、わけで2022年もよろしくお願いいたします。
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コメント

pu-koさん、コメントありがとうございます。

ベストテンに師匠のコメントをいただけてうれしく思います。この中で、録画してあるものがあるのですね。ご覧になって、記事にしていただけるとより嬉しいです。特に「私は確信する」「17歳の瞳に映る世界」に、pu-koさんのコメントいただきたいです。録画の中にあるといいのですが。

No title

今年ももう4月になってしまいました。
今頃ですがトップテン記事にコメントさせてください。

『ウェンディとルーシー』の記事拝見しました。einhornさんのレビューにはいつも鋭い気づきポイントがあり、ハッとさせられます。

ブログの閉鎖も考えてましたが、こうして作品を観る視点を学ばせていただくと、気持ちがまた映画に近寄ります。


トップテン中はまだ2本しか観れてないですが録画済のものもあるので、これからの楽しみにします。


木蓮さん、今年もよろしくお願いします。す。

2021年はシネコンで上映されるミニシアター系映画が減ってきているような気がします。そのせいか、いわゆるシネコンへ行く回数がかなり減ってしまいました。上映時間が長いとそれだけで腰が引けてしまうところがありまして、そのせいで、いい映画を見逃してる可能性が高いです。ボストン市庁舎も予告編を観る限りはすごく面白そうで、これが2時間切る映画だったら、絶対観に行くのになあ。

明けましておめでとうございます

2021年は、ほぼ名画座だったシネコンが無くなった分、そこで掛かっていたミニシアター系が残り3館に分散され、少しは観やすくなったような、そうでもない様なと言う感じでした。
ベスト10の中の3作しか観ていないのはいつものパターンかも。
エンタメものなら4時間越えでも平気な私ですが、ボストン市庁舎4時間半には腰が引けました。
今年もよろしくお願いいたします。
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Yahooブログから引っ越してきました。静岡出身の横浜市民で映画とサントラのファンです。よろしくお願いいたします。

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