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「ミルク」に見る差別意識は他人事ではなくって

今回は新作の「ミルク」を川崎チネチッタ1で観てきました。ここは劇場のサイズの割にスクリーンが大きいので最後列がベストポジション、最前列では何も見えないという映画館。シネコンにしては、珍しい。

1972年、サラリーマンしてたゲイのハーヴィー・ミルク(ショーン・ペン)は、若いスコット(ジェームズ・フランコ)と恋に落ちて、二人でサンフランシスコにやってきます。越してきたところはカストロ通りというところ、そこでカメラ屋を開店して、その地区はだんだんゲイのたまり場のようになっていきます。まだ、同性愛者は白眼視され、警察からひどい扱いも受けていた時代です。そこで、ハーヴィーは、サンフランシスコの市政執行委員に立候補します。州議会議員への立候補も含めて4回目の選挙で彼は当選します。そのころには彼は、同性愛者のリーダー的存在であり、市長やトラック組合などの支持を得て、政治的にも注目される存在でありました。そんな頃、女性活動家アニタ・ブライアントや右翼議員たちがゲイ差別禁止条例の撤廃をアピールしたり、同性愛教師を教職から追放する住民運動を始めます。ゲイのリーダー的立場のハーヴィーにも脅迫状が送られてくることもありましたが、それでも彼は運動の手を休めませんでした。しかし、元市政執行委員だったダン・ホワイト(ジョシュ・ブローリン)の放った銃弾が、市長とハーヴィーの命を奪ったのでした。

実在したハーヴィー・ミルクの人生を描いたもので、本年度のアカデミー賞で、主演男優賞と脚本賞を受賞した作品です。監督のガス・ヴァン・サントは「グッド・ウィル・ハンティング」で有名ですが、ちょっとメインストリートから外れた映画をたくさん撮っている人で、ゲイのリーダーという題材をどういう風に撮るのか興味あったのですが、意外や、淡々と事件を積み重ねる手法で、ドラマよりも、ハーヴィーという人間を浮き上がらせる映画になっていました。ゲイをあくまで、ハーヴィーのパーソナリティとしてとらえ、ゲイ差別をドラマの中心に置かなかったあたりのセンスは買いです。その分、ゲイに対するひどい差別があったことをプログラムを読んで再確認することになっちゃいましたから、痛し痒しの感もあるのですが。

私は正直なところ、同性愛ってのは生理的に苦手です。この映画でも、男性同士のラブシーンがあるんですが、それが自然に描かれているのですが、やっぱりウッヒャーって感じを持ってしまいます。ゲイというのは持って生まれた資質であって、それは差別しちゃいけないという自覚はあるんですが、心の底から苦手意識を払拭できない、でも、差別する行動をとらないようにコントロールできるというレベルです。1970年代のアメリカでは、正面きって、ゲイ人権保護条例が作られ、また、それが住民投票によって廃棄されたりということがあったそうです。それ以前からも、ゲイは差別の対象となり、ゲイであることで逮捕されたり、ゲイに目覚めた少年が家族によって強制入院させられたりしたそうですから、社会の秩序を脅かす存在だったようです。日本でも、差別されることはあったでしょうが、社会的な攻撃対象にまではなっていなかったように思います。1970年代はまだ子供で世間のことにはうとかったですし、私の身近に同性愛者もいなかったので、あまり確かとは言えないのですが。

しかし、持って生まれた資質によって、社会的に葬り去られてしまうのではたまったものではありません。ハーヴィー・ミルクはそんなマイノリティの人々の代弁者であり、政治的な力を持つことで、社会的に同性愛者を守る盾でもあったようです。そして、彼はあらゆるマイノリティの支援者であろうとしました。民主主義というのは、多数派主義に陥りやすく、それはマイノリティを切り捨てる社会へと結びつきやすいです。だからこそ、少数意見に耳を傾ける必要がありますし、少数派の権利も尊重されなければいけないのですが、現実はそうはなりません。その時、ハーヴィーによって、同性愛者の横のつながりが生まれて、政治的な力を持っていくようになったというのは大きな事件でした。数がまとまることによって、マイノリティにもマイノリティなりの政治力が生まれてくるのも重要なことです。

人間は平等だという原則からすれば、ゲイに対する偏見や差別はよくない筈なんですが、実際には差別されてしまう。そこに、人間の本性として、差別したがることがあるのではないかという気がします。人種、職業、生まれによる差別はしてはいけないこと、だから、心の中で、そういう気持ちがあっても、行動としての差別はしてはいけないのではないかと、私は思っています。いやいや、それでは差別はなくならない、心から、差別をなくさない限り、正しい社会は生まれない、というのもわからないではないですが、何事もまずは形から入るしかないのではないかと思うわけです。自分にはいかなる差別意識も持っていないと言い切ってしまうと、実際に自分の無意識の差別意識と直面したときに「それは差別じゃない」と意味のすり替えをして見栄を張ることになるのではないかと危惧するからです。人種差別反対者が実は女性差別主義者だったりもするわけで、完全な人間なんかいないと感じているからです。

そういう意味で、ハーヴィーがマイノリティーを支援するという政治公約を掲げているのは、偉いなあって思います。社会的に弱者と呼ばれる人を意識的に選択して支援しようというのは、正義や倫理とは一歩距離を置いた、人情と理性が感じられるからです。この映画に出てくるハーヴィー・ミルクという人間は、あくまで普通の人として描かれています。政治家としても、普通の駆け引きをするし、聖人君子でもありません。でも、マイノリティへの視点を持っていることで、彼の存在は、アメリカの歴史の中で大きな意義を持つことになります。同性愛差別が政治的に正当化されれば、ハーヴィーの仲間は希望を失う、そして、それはさらに別のマイノリティを差別する法案を作る呼び水にもなりかねない、だからこそ、彼は闘う理由を持っていたのだと思います。

ガス・ヴァン・サントの演出は、あくまでハーヴィーを中心にしたドラマに終始しているのですが、その中で、妙にダン・ホワイトにスポットを当てているのが気になりました。ダンがアイルランド系地区出身の市政執行委員で、ハーヴィーとも政治的な取引をして、自分の地区のための提案の支持を得ようとするのですが、それがなかなかうまくいかなくて、だんだんと追い詰められていき、その結末として、市長とハーヴィーを射殺してしまうという男なのですが、結局、なぜ、彼がそこまで追い詰められて、殺人に走ったのかはよくわかりません。他の人間がみなハーヴィーとの接点の中で描かれているのに、彼だけがどこか別枠で描かれているのに、演出の意図があったようにも思えるのですが、ドラマの中でここが妙に浮いてるのが気になってしまいました。

ともあれ、よくできた映画だと思いますし、演技陣も見事でしたので、劇場でお金を払って観るに値すると思います。ショーン・ペンの演技はリアルなのかどうかはわからないのですが、とにかくハーヴィーがそこに一人の人間としていることを納得させる演技でした。この映画のモトネタにもなっている記録映画「ハーヴェイ・ミルク」も観たくなりました。

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コメント

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einhorn2233
もくれんさん、コメント&TBありがとうございます。おー、男同士がチュッチュしてるのがダメなのは男子だけではなかったんですね。まあ、理屈として偏見はダメという理性があれば、なんとか乗り切れるのでしょうね。でも、ミルクを殺したダン・ホワイトが生理的にダメなのを理性で押さえ込んでる感じがしたのが、皮肉な印象でした。

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木蓮
女の私でも冒頭のキスシーンでは引いてしまいましたから、男性はさぞと思います。
気持ちはそうでも頭の中で偏見がなければ、実際に友人がゲイでも気にしないのではないかと思います。
映画は感情面を抑えた作りで好感が持てましたね。
こちらもTBさせてくださいね。

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einhorn2233
じゅりさん、コメント&TBありがとうございます。当時のゲイが他のストレートの人たちにどう受けいられたのかというのは興味あります。ハーヴィーはゲイ以外の弱者も支援していましたから、彼が支持されることは理解できたんですが、街の通りがゲイで埋まっている絵を見て、近所であんなイベントをやられたら、やっぱりいやだなあとも思ってしまいました。

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じゅり
ラッキーな事に放送してくれたのでやっと観れました。
この作品を観る前にドキュメンタリーも観ましたよ~。ハーヴィーの人となりや、当時のゲイに対する考え方、ハーヴィーという存在が、民意になってしまっていた思いに対する脅威になっていた事が伝わってきました。
それを観た上でこちらを鑑賞したので、一層感じ入ったところがありました。
作品としても素晴らしいものでしたよね。ショーン・ペンの演技はもう脱帽ものでした。
こちらからもトラバさせてくださいね♪

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einhorn2233
くるみさん、コメント&TBありがとうございます。こういう映画を観るとなかなか人間が平等だって認めるのは難しいということを感じます。既得権を守るために人殺しまで考えちゃうってのは、我々も気をつけないといけないですよね。神様が認めてないことが、表を大手を振って歩くようになったら、それをどう受け入れるのか。自分、一人だけの問題じゃなく、先祖からコミュニティの文化までを巻き込むことになるわけで、保守、革新の両方が先鋭化しちゃうのは歴史の教訓なんですが、うまい落としどころがなかなかみつかりません。

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くるみ
命の危険を顧みず・・・隠れて生きる者たちに勇気や希望を与え・・・導き続けたミルク。
観て感じるものは多々ありました。ショーン・ペンの演技も素晴らしかったと思います☆
トラバお願いします!

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einhorn2233
ゆきさん、コメント&TBありがとうございました。アメリカではまだゲイが表立って差別されているところが結構あるようですね。教会関係者では、ゲイは罪だと言う人が多いと聞いたことあります。弱いものいじめとは別の次元での差別だけに余計目に深い根っこを感じさせます。基本的に、生まれながらのもので差別されたくもしたくもないものです。

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ゆき
ショーン・ペンの演技も良くミルクという人物の魅力をよく知ることができる作品になっていたと思います。
何だか色々考えさせられる作品でした。
こちらからもトラバさせて下さいね!

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einhorn2233
Mariさん、コメント&TBありがとうございます。おっしゃるとおり、確かに時代の流れがまずあったのだと思います。その中で、ミルクの果たした役割が大変大きかったということなのでしょう。後、70年代って、今よりも価値観が統一されていて、大きな運動に結びつきやすいってこともあったのではないかしら。価値観の多様化した今と当時とどっちがいいのかってのは、未来で歴史が評価することなのでしょうね。

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Jumble-Mari
これほどまでに「人権」について考えさせられるとは思いませんでした。その熱い思い、行動はどこから来るのだろうか・・・観賞中終始思っていましたが、彼ひとりの意志だけでなく、周囲が渦のようなムーブメントに広げていったような感じですよね。その辺りは、70年代という「学生紛争」「反戦デモ」と同じ熱さが感じられました。TBさせてください。

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einhorn2233
じゅりさん、コメントありがとうございます。ドキュメンタリーの方も観る機会があったのですが、これが構成が「ミルク」そっくりなのでびっくり。犯人についてかなり時間かけて描いているのも同じ。ああ、これが元ネタなんだって納得してしまいました。

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じゅり
みなさんご覧になってますねぇ。益々観たくなってきて困ってます(^-^;
ショーン・ペンの演技はもちろんでしょうけど、作品としても素晴らしい出来みたいですね。
あ、元ネタになってるドキュメンタリーもあるんですねぇ。
観たい~!

No title

einhorn2233
Choroさん、コメント&TBありがとうございます。差別をなくそうという運動は大事だと思いますが、やはり人間、どっかで人を差別してるから、気をつけようというのが、現実解かもしれません。例えば、私ジェンダーフリーってのがどうにも受け入れがたいのですが、これが差別にあたるのかどうか、これは時代が決めるものなのかもしれませんね。女性差別はよくないってのはわかってるんですが。

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einhorn2233
Cartoucheさん、コメント&TBありがとうございました。男同士のラブシーンにウゲゲとなるのは偏見になっちゃうのかしら。生理的にダメでも差別的な行動をしないってことで勘弁して欲しいところです。制度的にマイノリティを認めるってのは、民主主義のいいところなのでしょうね。

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choro
確かに普通の人でゲイのラブシーンが得意とかいう人はほとんどいませんよね~私も居心地悪いのは同じでしたが(笑)かと言って否定する気はありません。ましてそれで法律的にどうこうなどというのはやはりおかしいですよね。
今でこそいろいろな権利が保護される時代になりましたが、ちょっと以前までは、どこの国でも偏見と差別がまかり通っていたわけで、ミルクはゲイのみならず、いろいろな自由を保護しようと努力したのが、多勢の人に支持された原因でしょう。
キャストは見事な演技でした。
こちらからもTBさせてくださいね♪

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car*ou*he*ak
私も偏見はないつもりですが、ラブシーンには引いてしまいました。
ミルクという人に関しては知らなかったのですが、こういう人がいてくれたからこそ、色々な差別がなくなっていったのですね。
TBさせてください。

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einhorn2233
wxrfd775さん、コメント&TBありがとうございます。この映画では、ミルクをあくまで普通の人として描いているところがあるので、ダン・ホワイトの変な人ぶりが際立って見えたのかも知れません。差別受けなきゃ差別のことを語れないなんてことないですよ。差別のことは色々と考えた方がいいですもの。この差別はひどい、これって差別になっちゃうのかなあ、とかですね。

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einhorn2233
なぎさん、コメント&TBありがとうございます。映画でこういう差別を知ることで、無意識の差別に改めて気付かされることってありますよね。少なくとも理性の部分で、「差別ダメだよ」ってことが頭のスミにあることで、ちょっとだけマシな人間になった気がしますもの。

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einhorn2233
pu-koさん、コメント&TBありがとうございます。なるほど、監督にとって、ミルクは社会的恩人でもあったのですね。でも、その割にはフツーの人に描いているのが不思議でした。その淡々とした味わいがガス・ヴァン・サントらしいひねりなのかもしれません。

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wxrfd775
わたしもダン・ホワイトはすごく気になりました。でもですねー,これはガス・ヴァン・サント先生がミルクに感情移入しすぎてしまったせいだと思うのです。普通の人ならミルクよりホワイトの方が身近だと思うんですよね。ゲイ云々抜きにして。マイノリティであるが故に(映画の中では)ミルクが優位に立ってしまったのだと思うのです。うーむ,ムツカしいですが。
差別ということに関しては【クラッシュ】を観た時にも思ったのですが,所詮わたしは本当の差別を受けたことがないのです。のほほんと生きてきわたしに,差別を語る資格はないのだなぁ今回もしみじみ思いました。
TBさせていただきますね。
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