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「シリアの花嫁」の境遇はすごい気の毒だけど、湿っぽくしないドラマがいい

今回は東京での公開は終了している「シリアの花嫁」を横浜のシネマベティで観てきました。

ゴラン高原のイスラエルの占領区域はもとはシリア領であったため、そこの住民は無国籍状態になっていました。もし、そこに住む人がシリア領へと移住した場合、二度と戻れない状況にあります。そんな無国籍地区に住むモナがシリア側に住む人気俳優タレルのもとに嫁ぐことになりました。しかし、一度シリアの国籍を取ってしまえば、二度と故郷に帰ることはできない、家族との生涯の別れの日でもありました。長男のハデムはロシア人女性と結婚して故郷を離れたことで、父親ハメッドとの間に確執がありましたが、妹に会うために妻と子供を連れて帰郷してきました。モナの姉アマルは二人の娘がいて、自立心の強い女性でしたが、その分保守的な村の中では浮いていました。ハメッドはシリア支持の政治活動家で投獄されたこともあり、娘との別れで国境まで行くことは許されていませんでした。家族のそれぞれが色々な事情や想いを抱える中で、結婚の段取りは進んでいくのでした。

シリア領だった土地にイスラエルが侵攻し、その結果、そこにもともと住んでいた人は無国籍になってしまったという事実は、この映画で初めて知りました。そこに住む女性がシリアに住む男性と結婚するためには、シリア国籍をとることになるのですが、それは、自分の故郷との生涯の別れを意味していました。どうみてもひどい話ではあるのですが、それに対しての一市民のできることは知れています。この映画で、変に恨みつらみを言わないで淡々と結婚の段取りを進めていくというのは、よく考えるとすごい生き方ではないのかなという気がします。父親は、シリアの新大統領を支援する村のデモに出かけるのですが、それが大勢に影響を与えるとは思えません。それでも、イスラエルの警察は彼らに目を光らせています。

私のような単純な人間だと、イスラエルがどんどんパレスチナに侵攻していったせいで、どんどん元から住んでいた人間はひどい目に遭っているのだから、イスラエルは悪い、だからイスラエル人は悪い奴ということになっちゃうのですが、現実の場では、そればかり言ってはいられない、また、イスラエル人が悪人という図式だってあまりに短絡的だというのがわかってきます。それでも戦争の結果はあまりに理不尽です。でも、会ったこともない人と結婚させられるのもずいぶんと理不尽な話で、そんな封建的な空気は花嫁の姉アマルにとっては理不尽なものと映っているようです。なるほど、人間の自由に制約を与えるものというのは、色々あるんだなあって感じさせます。村の掟のレベルで考えると花嫁の兄はロシア人女性と結婚して国を出て行ったので、結婚式に同席させてもらえません。個人のレベルで考えれば村の掟も国家の理不尽さも受ける仕打ちは似たようなものだという見せ方をしていて興味深い点もあるのですが、シリア人に対して、イスラエル人がそういう描き方をするのは何だか違うんでないかいという気もしてきます。

さて、花嫁側の式も済んで、国境までみんなで出かけるのですが、ここで、今度はパスポートの国籍の更新の段取りで、イスラエル側とシリア側で言うことが違っていて、花嫁がシリア側へ行くことができません。赤十字の女性が花嫁のパスポートを持って、イスラエルとシリアの間をウロウロすることになるのですが、どっちもいわゆる小役人根性でなかなか話が進みません。イスラエルでは出国したことになった花嫁ですが、シリア側ではそのパスポートの内容を認められないとして、入国することができないのです。バカバカしいけど、事態は深刻です。だって花嫁は帰れないし、進めないのです。



この先は結末に触れますのでご注意ください。




国境の向こうには花婿も待っていて、何とかしようと手を尽くすのですが、うまくいきません。問題なのは、パスポートのイスラエルを出国したというスタンプでした。これまではこんなもの押していなかったのに、イスラエル側のやり方が変わったらしいのですが、シリア側からすれば、シリア内の移動なのだから、この出国印は認められないというのです。それでも、何とか妥協案、出国印を修正液で消せば、通そうということで、イスラエル側の役人が消したら、シリア側の役人が時間がきて交代していて、そんな話聞いてないって言い出します。ここまで間に立ってきた赤十字のジャンヌもついにさじを投げてしまいます。それぞれの人間はそんなに悪人とは思えないのですが、国家というシステムの中では個人に対してメチャ冷たい。国境に呆然と立っていた花嫁モナはついには自分でシリアに向かって歩き始めます。それを誰も止めることができないところで映画は終わります。このラストはリアルな花嫁の行動というよりは寓意の方を優先させているという印象でした。最悪の結末の中で、何も言い出せない花嫁の姿は痛々し過ぎて、このまま映画を終わらせられないという苦肉の策のようにも思えました。

「シリアの花嫁」というから、素朴なドラマなのかと思っていたのですが、シネスコ画面に展開する物語はかなり作り込まれたドラマになっていまして、物語の中で、様々なことが語られています。国籍のない状況、封建的な文化、役人根性、国境で隔てられた家族など、語られることは大変悲劇的です。しかし、映画は日々の生活感から逸脱しないで描かれ、理不尽な状況を声高に叫んだり嘆いたりすることはしません。そこに人間のたくましさを感じさせる一方でその理不尽さのリアリティが伝わってきます。監督、共同脚本のエラン・リクリスはエルサレム生まれですが、これまでにも国境を舞台にしたドキュメンタリーを撮ってきたそうです。モントリオール映画祭でグランプリを受賞した映画ですが、映画としてはよくできてるというレベルではないかと思います。ただし、扱っているテーマ、切り口は見事ですし、理不尽な社会をペシミスティックになり過ぎない視点で描いたという点も点数高いです。様々な想いを胸に持つ人々が多くを語り過ぎないというところにこの映画のよさと力強さを感じました。

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コメント

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einhorn2233
じゅりさん、コメント&TBありがとうございます。政治的な視点もありましたけど、やっぱり向こうの国でもお嫁さんは大変なんだなってわかるのも勉強になりました。花嫁のお姉さんが進歩的な女性のように描かれているので、これからは男女が対等な方向へ進むのかなって予感もさせました。まあ、イスラム原理主義の台頭で逆コースに行っちゃった国もあるので難しいところですけど。

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じゅり
中東情勢については詳しく知らなかったので、この作品でお勉強させてもらいました。
しっかりと政治的な問題も織り込みながら、一家族からの視点からいろいろな事までに視野を向けさせる構成はお見事だと思いました。
ラストは、監督の、未来に対する願いが込められたシーンだと捉えました。
とってもいい作品だったと思います^^
こちらからもトラバさせてくださいね♪

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einhorn2233
Choroさん、コメント&TBありがとうございます。こういう映画って、映画の良し悪し以前に勉強になるところ多いですね。国籍の話もそうですけど、あちらのお国でも、嫁は大変とか、「女、三界に家なし」みたいなことがあるんだなって知ることができましたもの。最悪の状況を湿っぽくしなかった演出は見事でしたけど、やはりラストはつらいですよね、あのお嫁さん。

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choro
世界には知らないことがあまりにたくさんありますね。
我々日本人の常識からは想像できないことも多く、このような映画を観るたびに勉強になります。
確かに重い背景がありながら、ストーリー的には希望もありカラっとした印象でしたね。
遅くなってすみません。TBさせてくださいね♪

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einhorn2233
らぐなさん、コメント&TBありがとうございます。無国籍状態を知ったこともビックリでしたけど、それでも人々の暮らしは続くという点に気付かせてくれたことでも、この映画の価値があると思います。肌の白いロシア人妻が差別っぽい扱いをされちゃうあたりのリアルさとか、色々発見のある映画でした。

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LAGUNA
ゴラン高原のイスラエル占領区、無国籍状態になってるってこの映画で初めて知りました。嫁いだら家族と二度と会えないってそんなバカな・・、しかも会ったことない人と結婚(>_<)
そそ、人間の逞しさを感じますが理不尽さがリアルでしたね~。TBお返ししますね

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einhorn2233
のびたさん、コメント&TBありがとうございます。日本だったらベタベタに泣かせどころばっかの映画になりそうな題材を意外なほど淡々と見せるあたりがよかったです。私もあの後どうなるのかリアルに考えるとよくわかりませんでした。帰るところも行くところもない花嫁の見せ方としてはこれが限界なのかなって思いました。

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出木杉のびた
内容はかなり深刻なはずですが、描き方のせいか、それほど重苦しくならないのが不思議です。
花嫁の決断には驚きましたが、あのまま向こうへ行けたかどうかは分からないわけで、こういう終わり方もアリかな、と思いました。

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einhorn2233
pu-koさん、コメント&TBありがとうございます。この映画、重い題材を扱いながら生活者の視点から離れないドラマつくりがうまいなあと思います。それにしても、この花嫁、気の毒過ぎますよね。女性の立場が弱いのを文化だと言い切るのも何だかなーですし、後進国だというのも気が引けるし。昔なら、後れた国だと言い切れたのでしょうけど、イスラム原理主義の復活でかえって女性の地位が下がっちゃうところもあるみたいだし。何でも平等っていうジェンダーフリーってのにもなじめないんだよなあ。

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pu-ko
花嫁の立場になったら、なんとか思うのに、周りの人間は誰もどうにもすることができず、
役人に至っては完全なお役所仕事。
これがこの国に暮らす人々の実情なんだろうなぁと理不尽さに呆然となりながらも、コミカルな描き方から、そのシリアスさをつい忘れがちになります。
そうですね。悲観的になりすぎす、かつ語りすぎず、それでも実情を淡々と描いてるのがよい点かもですね。
Tさせてくださいね。

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einhorn2233
irukaさん、コメントありがとうございます。女性が耐える文化というのはどこの国にもあるんでしょうね。「女三界に家無し」というのは日本だけじゃないんだってのがわかる映画でもありました。それにしても、それまで住んでた人を追い出す政策ってのは、やられた方にとっては理不尽な侵略にしか見えないよなあって再認識させられました。

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iruka
ぜひ、見てみたい映画です。
イスラエル問題は複雑ですね。
その地で生きていかなければいけない人々はきっと想像以上に大変でしょうね。特に女性たちは。
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