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「ハーヴェイ・ミルク」は「ミルク」と合わせて観るのをオススメのドキュメンタリー

今回は「ミルク」の元になっていると言ってもいいドキュメンタリー「ハーヴェイ・ミルク」を横浜のシネマジャックで観てきました。DLPによる上映でしたけど、この映画が事件の5年後、犯人のジャックホワイトが出所後に公開されていたというのが意外な驚きでした。

サンフランシスコのマンソン通りにカメラ店を開業したゲイのハーヴェイ・ミルク。彼はゲイなどの弱者の代弁者としての活動を開始し、市政執行委員にも立候補し2回の落選の後に当選します。彼は、差別される立場にあったゲイ、そして、社会的にも弱い立場の身体障害者や老人を支援するという立場で多くの賛同者を得ました。特に、キリスト教社会では目の敵にされていた同性愛者の代表というべき人間でした。そんな彼も1979年、同じく姿勢執行委員であったダン・ホワイトによって射殺されてしまいます。犯人はマスコーニ市長も一緒に殺害しているのですが、極度のストレス状態にあったということで5年の実刑という軽い処置がとられ、大きな非難を浴びるのでした。

これを観てまず驚いたのは、構成が2009年の「ミルク」とほとんど同じであったということです。ミルクの残した遺言ともいうべきテープも登場しますし、サンフランシスコに引っ越してきたところから話が始まり、後半はダン・ホワイトをかなり重く扱っているという点まで同じでした。何だか、犯人の扱いが大きすぎてバランス悪いなと思った「ミルク」でしたけど、この映画では、ホワイトの犯行後の逮捕から裁判の経過が丁寧に描かれていて、なるほど彼の軽い量刑も当時の世相の一部だったのかなと思わせるものがあって納得できました。ですが、彼もホワイトの中のマイノリティであったという「ミルク」では描かれていた重要なポイントには触れられていませんでしたから、どっちの優劣ということにもならないのですが。

ドラマの「ミルク」では、彼の身近な人間を印象的に描いていましたが、ドキュメンタリーの「ハーヴェイ・ミルク」では、彼の身近ではあっても若干距離を置いた人々のインタビューを中心に構成されています。しかし、意外なことに、そういう人々のインタビューの方が彼の人となりがよく見えてくるのですよ。「ミルク」では、ショーン・ペンが演じたことによって、ショーン・ペンの演技を通して、ミルクという人間を見ることになったのですが、それよりも、実際の人間の証言の方がミルクという人間の存在感を浮かび上がらせるのです。そして、実写の彼の姿も含めて、ドキュメンタリーの力を改めて実感しました。陽気さの中の神経質さのようなものも、彼本人へのインタビューからよく伝わってきます。また、このミルク暗殺事件が歴史の一部になる前に製作されたという点からも、その時代に対する視線は違っていまして、まだ同性愛者の人権が確定しきっていないころに、ミルクという人間を通じて、同性愛者の権利を擁護する映画になっている点も見逃せないと思います。きっと、今よりも当時の方が彼に対する殉教者という意識は高かったのではないかしら。でも、この映画はそういう偶像になりつつあるハーヴェイ・ミルクを一人のおっさんとして紹介しているという点が面白いと感じました。

そして、不当に低いダン・ホワイトへの量刑について、映画はそれを非難する立場を取っています。ジャンクフードの取りすぎで精神錯乱した人間が、銃を持って、金属チェックを避けて窓から入って、市長を射殺した後、弾丸を補充してミルクを殺しに行きましたというストーリーは、とても納得できるものではありません。懲役5年というのは確かにフェアな判決とは思えません。細かい経緯まではこの映画からは読み取れないものの、この判決にゲイの人間が大きな抗議行動を起こしたというのは納得できるものがあります。見た目には、マイノリティであるミルクが殺されたという点で、裁判にバイアスがかかったように思えてしまいますもの。

アメリカ社会って、さまざまな差別が存在するという点から見たとき、こういう過去の闘争があって、ゲイが市民権を得たんだなという歴史的経緯を感じる一方で、21世紀になってアラブ系の差別が生まれていることを考えると人間は差別をしながら歴史を積み上げているのだなと改めて感じてしまいます。様々な人間を許容しきれない意識というのは、日本人も同様に持っているわけで気をつけないといけないなと改めて感じます。特に差別からの攻撃の矛先が弱いモノへと向かうというのは、人間の業みたいなものなので、冷静に考えて行動することが重要でしょう。人間、根っこのところはそうは変わらないという一方で、有色人種やゲイといったマイノリティの権利が認められてきているアメリカの底力も感じる一本でした。

この映画は1984年のアカデミー賞のドキュメンタリー賞を受賞しています。監督のロバート・エプスタインは同性愛者を題材にしたドキュメンタリーを何本も撮っているそうです。また、当時は新進のミュージシャンだったマーク・アイシャムが音楽を担当していまして、シンセサイザーによる音楽を提供しています。この音楽は、彼の初期のアルバム「フィルム・ミュージック」に収録されていましたが、やっと本編を拝むことができました。

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コメント

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einhorn2233
くるみさん、コメントありがとうございます。同じ題材を似たような切り口で作ったドラマとドキュメンタリー、各々の訴えかけるところに若干の違いがあるのが、面白いところだと思います。ドラマの方が時代が浮かび上がり、ドキュメンタリーの方がミルクという人間が浮かび上がるという意外な見え方が興味深かったです。

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einhorn2233
pu-koさん、コメントありがとうございます。映画がそういう立場を取っているかというと微妙ですが、ダン・ホワイトの判決にデモが起こる様子、それに納得できない人々へのインタビューも登場して、後日談をかなり丁寧に描いています。そして、ミルクの死後も差別はまだあるという余韻が残る映画になっています。

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くるみ
こちらで公開しなかった「ミルク」すごく気になっています!
DVDで早く・・・チェックしたいです。

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pu-ko
ドキュメンタリーには作り物にない真実を伝える力がありますよね。
映画『ミルク』では、ダン・ホワイトの求刑についてエンドロールにフリップで説明されるのみでしたが
ドキュメンタリーでは非難する立場を取ってるというのも面白いですね。

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einhorn2233
じゅりさん、コメントありがとうございます。ドラマとドキュメンタリーを比較できるってのは滅多にないので、両方ご覧になることをオススメします。ドラマのうまさ、ドキュメンタリーの底力を再認識できて、映画の楽しみ方が一つ増える感じです。

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einhorn2233
なぎさん、コメントありがとうございます。ミルクがいわゆるイコンではなく一人の人間として存在したことを再認識できる映画でした。差別というのは、オレオレ詐欺みたいなところがあって、自分は大丈夫だと過信するのは禁物だと思います。差別は悪だと言う前に、人間は差別する動物だから、みんな気をつけようねってところから始めるべきと思いますです。

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じゅり
お、ドキュメンタリーの方ですね~
構成は『ミルク』と似てるんですかぁ。と、まだ『ミルク』観れてませんけど(^-^;
こちらも見応えありそうですね。
おっと~音楽はマーク・アイシャムですか!^^

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なぎ
実際のハーヴェイ・ミルクがどんな人だったかを知るには良いんでしょうね。
差別はなくなりませんね…。
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