FC2ブログ

「完全なる報復」は色々な意味でうまい、よくできてて面白い娯楽映画

今回は、新作の「完全なる報復」をTOHOシネマズ川崎4で観て来ました。この映画もシネスコサイズだったのですが、最近の映画ってシネスコサイズがずいぶん増えたように思います。テレビがビスタサイズになっちゃったから、その差別化ってことなのかしら。その昔、日本映画がシネスコサイズオンリーだったころを思い出します。

家に押し入ってきた二人の暴漢によって、妻と娘を殺されたクライド(ジェラルド・バトラー)。犯人は逮捕されたものの、主犯格は共犯に罪を押し付け、司法取引により5年の禁固刑で済んでしまいます。担当した検事ニック(ジェイミー・フォックス)は、若干の後ろめたさも感じつつも、仕方のないことと割り切っていました。10年後、共犯の死刑執行に立ち会うことになるニックですが、その処刑の薬に劇薬が混じっていて、共犯の男は苦しみのたうち回って絶命します。さらに、主犯の男が誘拐され、惨殺された死体として発見されます。死体の発見場所のオーナーであったクライドが逮捕されるのですが、物的証拠は一切ありません。クライドは自供をするからと取引を持ちかけます。高待遇で刑務所に収監されたクライドですが、彼の司法制度に対する復讐は始まったばかりなのでした。

理不尽な殺人事件で妻と娘を失い、犯人は逮捕されたのに、証拠が適用されず、居合わせたのに証言は採用されない、そんな理不尽な状況で、主犯格の男は、禁固5年という軽い刑で済んでしまいます。検察も、有罪率を上げたいこともあって、敗訴の可能性のある裁判に持ち込むことより、司法取引を選んでしまいます。クライドにとってみれば、妻子を奪った犯人への憎しみもさることながら、そんな犯人を軽い罪で解き放す司法制度に対しての恨みもあります。

クライドはまず妻と娘を奪った犯人を惨殺します。さらに、その後、事件にかかわった弁護士や判事らにも、その矛先を向けていきます。クライド自身は刑務所に入れられているのに、彼の仕掛けたシステムは確実に復讐の段取りを進めていくのです。前半は、猟奇殺人ものみたいな展開なんですが、後半は息詰まるサスペンスとなっていくのが見事です。「フェイクシティ」や「ソルト」で知られるカート・ウィマーの脚本は、穴だらけの司法制度を題材にしつつ、かなり怖いサスペンスものに仕上げました。冒頭で、クライドが犯人を残虐に殺すシーンを見せることで、クライドにもニックにも肩入れさせないようにした構成が成功しています。クライドの言い分はもっともなところがあって、凶悪犯とわかっていても彼らの権利を過剰に守ってしまう司法制度、個々の事件を有罪率で括ってしまう検事局、正義の実践とは言いがたいものがあります。そんな彼の怒りは、極めて歪んだ形でニックたちを追い詰めていきます。観客としては、妻子を失ったクライドに同情しつつも、でもやりすぎだよなあと思っているうちにだんだんと、クライドの常軌を逸した行動に怖さを感じていきます。犯人の弁護士が殺され、さらには、裁判のときの判事もクライドの復讐システムによって殺害されます。クライド自身は、刑務所に入れられ、そこで同じ監房の囚人を殺害し、独房に移動させられていました。しかし、復讐システムは確実に機能していきます。どうやら、彼には共犯者がいるようです。外にいるニックたちが、クライドに怯えるようになっていくあたりの展開が見事でした。

また、演技陣にいいメンツを揃えているのも点数高いです。F・ゲイリー・グレイの演出がきちんとキャラを描きこんでいるということもあるのですが、登場人物が印象に残るようになっています。ニックの上司のブルース・マッギル、刑事のコルム・ミーニイやマイケル・アービーといった面々がプロフェショナルなといったベテラン陣が存在感を見せる他、司法制度に疑問を抱くニックの部下を演じたレスリー・ビブ、意外な貫禄を見せた市長役のヴィオラ・デイビスなど、メインのドラマに厚みを与えるのに大きく貢献しています。



この先は結末に触れますのでご注意ください。(今回は未見の方は読まない方がいいです。)




そして、クライドが政府関係の汚れ仕事をしていて、それが遠隔殺人だということもわかってきます。彼は、ただの被害者ではない、殺人のプロだったのです。ついには、ニックの部下たちも爆弾によって殺害され、その葬式の帰りに、ニックの上司も遠隔ロボットによる攻撃を受けて死亡。これがマスコミに知られるに及び、街中に不安が走り、半戒厳令みたいな状態になってしまいます。ニックはクライドの購入した土地を調べて、その中に刑務所に密接した倉庫を発見します。その倉庫を調べてみると、そこには刑務所の独房につながる地下道がありました。クライドには共犯なんかいなくて、自分が刑務所の中と外を行き来して犯行を行っていたのでした。そして、クライドは市庁舎に清掃員として潜入し、安全会議の会場に爆弾を仕掛けます。しかし、地下道を発見したニックたちによって、爆弾は発見されます。独房に戻ったクライドをニックが待ち構えていました。ニックはクライドに思いとどまるように忠告するのですが、クライドは起爆装置につながる携帯電話に電話するのでした。しかし、爆弾は独房の中に運び込まれていて、クライドは爆死。娘のチェロの発表会を妻と一緒に見つめるニックの姿から暗転し、エンドクレジット。

なるほど、この犯行に至るまでに10年かけるだけのことはある仕掛けをしてあったわけですが、市庁舎に爆弾しかけるのは、やはり当初の方針からの逸脱でして、ここで犯行を止めるあたりに娯楽映画としての妥協とサービス精神があると言えましょう。クライマックスのサスペンス、刑務所の独特な絵作り、ヘリコプターをバンバン飛ばして映像に緊張感を出すなど、見せる映画としての見応えも十分でした。一応、最後はニックサイドに立って映画を収めるというのは、まっとうな内容なんですが、結局、司法制度の矛盾については、そのまんまなので、非常に保守的な映画だとも言えます。まあ、マジメな社会派映画ではないので、政治的スタンスを問うのもヤボではあるのですが、問題提起と娯楽映画を両立させるハリウッド映画のうまさは感じました。結局、問題の答えは出ないのですが、それは観客に投げられたということになるのでしょう。まあ、そういう余韻のないのが残念でした。(似たような司法制度の矛盾を扱った「密殺集団」という映画を思い出したのですが、面白さでは、「完全なる報復」の勝ち、テーマの余韻では、「密殺集団」に分がありました。)

この映画の面白いのは、正義と悪の対立にならないことでして、司法制度は正しいとは言い難いけど悪じゃない。クライドは行動は悪だけど、言ってることにはそれなりの理がある。理屈で考えると、どっちも曖昧なものを持っています。一方、感情論で言うと、クライドの行動には、前半はある意味カタルシスを感じるところもあります。一方の検事局のやってることは胸くそ悪いところがあります。理屈と感情がうまい具合に市松模様のように絡み合うところに、この映画のよく計算された面白さがあります。それでも、クライマックスでクライドを暴走させることで、娯楽映画としてのカタルシスをもたらしたあたり、職人的なうまさを感じました。

スポンサーサイト



コメント

No title

einhorn2233
らぐなさん、コメント&TBありがとうございます。確かに暴走したまま最後まで行って欲しかった気もします。20世紀の映画なら、そういう結末もあったんだろうけど、21世紀は映画も保守的になっているのかもです。

No title

LAGUNA
エンタメ性十分あるので劇場で鑑賞したらもっと面白かったでしょうね。クライドの方に感情移入してたので暴走ついでに最後までいっちゃってほしかったと思ってしまいました(笑)TBお返ししますね

No title

einhorn2233
オネムさん、コメント&TBありがとうございます。おっしゃるように結構冷静にこの映画観ていたかもしれません。この発端から、どういう結末に落とし込むかなあっていう楽しみ方をしてしまったので、なかなか頑張った落としどころではないかと思ってしまいました。主人公に感情移入しちゃうと確かにすっきりしない結末かもです。

No title

オネム
とても客観的にご覧になられたのですね、尊敬申し上げます!
わたしなんか、もう、偏りまくりでクライドに感情移入してしまいました。でも良く考えると、その方面のプロだった彼が、最初に2人の強盗にあんなにあっけなくつかまるなんていうのが、ちょっと矛盾しているようにも観終わってから、思いました。
たまには、イキきっている作品を観てすっきりしたかったのに、最後が予定調和で、憤懣やるかたなしでした(笑)
こちらからもTBお願いします。

No title

einhorn2233
ライアンさん、コメントありがとうございます。ああいう猟奇殺人系好きな人もいますから、ああいうつかみもありなのかもしれませんが、とりあえず色々なネタを並べてみましたという感じの構成でしたね。私は、引いちゃいましたけど。でも、判事を罵倒するところはカタルシスありましたです。

No title

ryane
冒頭の殺人にカタルシスを感じた人間です^^;
あのまま進むと「SAW」化になりそうでしたが社会派サスペンスにたどり着きましたね。刑務所からのカラクリでポスト・レクター博士になるのでは、という期待もしてました。

No title

einhorn2233
Choroさん、コメント&TBありがとうございます。前半で社会派と猟奇殺人ものというアンマッチな取り合わせに、後半はサスペンスに持って行った構成が面白かったです。エンタテイメントとしてよくできていたと思いますが、冒頭の殺人に狂気を感じるか、カタルシスを感じるか、観客を試しているようなところもありました。

No title

choro
同感です。
社会派のようでいて、エンタメ映画としての面白みが充分堪能できるサスペンスでした。
あまり深い事は考えずに観た方がよいのでしょうか。^^;
遅くなってすみません。TBさせてくださいね♪

No title

einhorn2233
pu-koさん、コメント&TBありがとうございます。この映画の隠し味として、私怨と義憤ってのがあったように思います。クライドの行動の動機には義憤もあるように思えるのですが、ラストの彼の表情からすれば、結局私怨に落ち着いちゃうんだなってところが、意外な面白さになっているように思いました。

No title

einhorn2233
くるみさん、コメント&TBありがとうございます。確かに良くできた映画でしたよね。「正義と悪」と「司法制度」の間の距離感みたいなものが面白いと思いました。単なる復讐だと「狼よさらば」「ブレイブ・ワン」とか自警市民ものの映画が色々あるのですが、その先まで行ったあたりが新機軸でした。

No title

pu-ko
法に物申すのかと思えば、関わるものを皆殺しにしただけ、というところにやや不満を感じるところでしたが、問題提起ということで、サスペンスフルな復讐劇に徹したと考えれば、面白い映画でしたよね。
ニックの内側にはなんとも苦いものが残ってしまうという締め方も良しでした。
TBさせてくださいね。

No title

くるみ
映画として、良く出来ていたなぁ~という感想です。
主演のお二人も熱演で・・・サスペンスのようで、ホラーっぽくて・・・
司法制度の裏にある正義と悪・・・肩入れの具合で感想も変化しそうです。
トラバお返しさせて下さいね^^
非公開コメント

トラックバック