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「フェア・ゲーム」はアメリカの怖さと正直さを感じる映画でした


今回は、新作の「フェア・ゲーム」をTOHOシネマズ川崎8で観てきました。このシネコンは基本デジタル上映になっちゃいました。この劇場はキャパもスクリーンも小さめで、やや縦長な劇場です。

9.11同時多発テロ直後のアメリカ。CIAの秘密諜報員ヴァレリー(ナオミ・ワッツ)は、周囲には証券会社のキャリアウーマンの顔を見せつつ、中東での諜報活動を行っていました。ブッシュ政権はイラクが大量破壊兵器を保有しているとして、その情報収集を行っていました。しかし、その証拠となるようなものは見つかっておらず、イラクが大量に購入したアルミ管もそれが核兵器に使われるとは思えないものでした。また、ニジェールからウランを買い付けたという情報が入り、ヴァレリーの夫で元ニジェール大使のジョー(ショーン・ペン)に現地調査に行ってもらいます。その結果、大量のウランがイラクに送られた可能性はほぼないというものでした。また、イラクの科学者たちから集めた情報でも、もはやイラクに核開発能力は残っていませんでした。ところが、CIAの調査結果は、副大統領補佐官リビー(デビッド・アンドリュース)によって歪められ、イラクが核兵器のためのアルミ管と大量のウランを入手したことにされてしまい、ブッシュ政権はイラクに宣戦布告します。そのことに憤ったジョーは、イラクに核はないという記事をニューヨーク・タイムズに寄稿します。すると、その報復に、ヴァレリーがCIAの諜報員であることがメディアにリークされ、ヴァレリーの指示でジョーがニジェールに行ったという話が公にされてしまいます。世間に素性を明かされたヴァレリーはCIAの全ての作戦から外され、ジョーは共産主義者と呼ばれ、家には脅迫電話までかかってきます。巨大な権力がジョーとヴァレリーの前に立ちはだかっています。果たして、二人はこの戦いに勝つことができるのでしょうか。

「ボーン・アイデンティティ」も撮ってるし、「ジャンパー」も撮っちゃったダグ・リーマン監督の新作です。ずいぶんとひどいお話だなあって思っていたら、実話が原作というのでびっくり。大量破壊兵器がイラクにあるんだという前提で始めた戦争だけど、その戦争の根拠が虚構だったことは後年明らかになりました。その題材は「グリーン・ゾーン」でも扱われていたのですが、今回は実際に起きた事件に基づいて、アメリカという国のもう一つの顔を見せてくれます。

まず、興味深かったのが、ヴァレリーがCIAの仕事で世界中を駆け回りつつ、2人の子供を持つ普通の母親であり、ちゃんと家庭を持っているということ。夫のジョーは、彼女がCIAで働いていることは知っていますが、どこでどんな仕事をしているのかは知りません。一方で、ヴァレリーは情報収集の実働部隊として活動していました。007みたいな仕事をしていても、子供の送り迎えを夫と分担しているというあたりが妙にリアルというか、実話なんだなあっていう実感がありました。

一方で、恐ろしかったのは、ホワイトハウス。情報を操作して、戦争を始めようとしているのです。どういう利権が動いているのかまでは描かれませんが、少なくとも戦争したくてしょうがない人間が政府の中枢にいるという現実は、大国だけに怖いものがありました。そして、戦争が始まったら、「今更、あれは嘘だったとは言えない」という空気が、上から下まで流れてしまうのです。現代のアメリカで、こうなのですから、場の空気を大事にする日本なら、変な方向に走ったら、余計目に歯止めが効かなくなるでしょう。それに対して、個人が闘いを挑んだって、ホワイトハウスに敵うとは到底思えないのですが、この映画では、それを実際に闘った女性が登場するわけです。

戦争の根拠である、イラクの大量破壊兵器の存在が怪しいのに、ブッシュはそれが確実だと言い切ります。そこで、ジョーはそれに反論する記事を書くのですが、その結果、報復措置として、ヴァレリーがCIAの諜報員であることがメディアにリークされてしまいます。これにより、彼女が担当していた作戦は中止になります。その中には、イラクの核科学者の救出もあったのですが、それも中断され、アメリカに情報を提供した科学者たちは、CIAの手によって始末されてしまいます。救出はしないが、他国へ流れても困るという恐ろしい理屈の結果です。(正直、ここまで事実なのかな? フィクションも入ってるんじゃないかな?と思ったのも事実ですが。)

ナオミ・ワッツとショーン・ペンは「21グラム」「リチャードニクソン暗殺を企てた男」で共演していますが、今回は実録ドラマを押さえた演技で見事に演じ切りました。前半の諜報活動のシーンが007っぽいところもあるのですが、家庭でのシーンで、生身の人間を演じていまして、二人の演技で映画の点数がだいぶ上がったと思います。ダグ・リーマンの演出は、正直言って無難ですが、前半でドラマをあちこちに引っ張りまわして、二人にドラマの焦点が絞り込まれるまでが、モタついた感もありました。それでも、この題材をエンタテイメントに仕上げている点は評価できると思います。



この先は結末に触れますのでご注意ください。(といっても、意外な展開とかはないです。)



そんな理不尽な政府のやり方に、ジョーとヴァレリーの夫婦仲も悪くなっていきます。あくまで言論で闘うんだと息巻くジョーに対して、ヴァレリーは、世界中に所在を知らされ、イラク科学者の件もあって、弱気になっていました。ジョーも、打ちのめされているヴァレリーに対する思いやりが足りないのですが、その結果、ヴァレリーは実家へと子供を連れて帰ってしまいます。しかし、思い直した彼女は家に帰り、どんなことがあってもこの結婚は壊さないし、自分も闘うとジョーに宣言します。そして、調査委員会の証言席に登るヴァレリー。そこで、証言するヴァレリー本人の画面となり、彼女が今も子供と一緒に暮らしていることが示されてエンドクレジット。

ほんの10年前の自国の悪事を娯楽映画の枠で作ってしまうのですから、アメリカというのは、やはり自由がある国なんだなと思います。ただ、その自由は自分で守らなきゃいけないというのもこの映画は語っています。国家と個人が対立することもある、ただその時、個人は国家並みの強さを持たなければ勝てない。そして、周囲もその勝負を冷静に見つめていますので、判官びいきといった情の入る余地は日本よりも少ないようです。アメリカに情がないというわけではないのですが、そこに国の持つ歴史というか文化の違いを感じました。それでも、戦争が始まったらやめられないというのは、アメリカでも、日本でも同じだというのは、恐ろしいことだと思います。後、どこにでも、戦争したがる人間がいるということも。戦争をする自由ってのがあるのだとしたら、それを何とか押さえるものがあって欲しいと思います。それが、理性とか倫理でもいいですし、情でもいい、お金だっていい、とにかく戦争を止められるものを持つことが大切であり、戦争したがる人間に騙されない強さが必要なのだと思わせる映画でした。
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なぎさん、コメント&TBありがとうございます。あくまでドラマは夫婦から離れないのがよかったように思います。市民目線で、国家と闘うってのはこういうことなのかってのが、伝わってきましたから。

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国家レベルの話なのに、ひと組の夫婦の話として感じてしまいました。
結局は、こういう個人の積み重ねが国家なんですよね。
遅くなりましたがTBお返ししますね☆

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オネムさん、コメント&TBありがとうございます。アメリカってのは、やはり個人と自衛の文化なんだなあって改めて認識させる映画でした。でも、一方で長いものには巻かれろ的な人間もいるってところに、人間あまり変わらないのかなって感じさせるのも面白かったです。戦争したがる人間がいるってのは、すごく不快ですよね。

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強い夫婦でした。
ふつうだったら、泣き寝入りってパターンなのでしょうけれどね。
ブッシュって親子で戦争起こして、よく普通に生きていられますわ!
人間の弱さも強さも社会の権力も脆さも、相反するものが程よく混ぜ合わされていて興味深く観られました。
TBこちらからもお願いします。

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かずさん、コメント&TBありがとうございます。長いものには巻かれろってのがアメリカにもあるんだってのは発見でした。また、戦争を始めてしまえば、もう止められないってのは、昔の日本だけじゃないんだなあってところが、人間って、みんな同じようなもんなんだなあって、改めて感じました。

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これが実話だというのが驚きですよね。
ブッシュ政権はホントにクソですね!
怒りを感じました。
TBお願いします!

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かいざぁーさん、ご訪問ありがとうございます。確かにこの映画は宣伝もほとんどされずにひっそりと公開されてしまいましたが、内容的には、今の日本にも通じる、個人と組織の関係を描いていて見ごたえがありました。多くの人に見て欲しい映画ですよね。

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みんなに知ってほしい映画ですね♪

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くるみさん、コメント&TBありがとうございました。ヒロインのドラマ部分に見応えがあったのですが、そこにたどり着くまでが長かったような気がして、もっとヒロインの内面を描いて欲しかったように思いました。

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私は折れない・・・夫に過去の訓練を話すシーン、いたたまれなくなりました。
実際のお話を知って観ましたが、驚きでした。
トラバ、お返しさせて下さい^^

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Choroさん、コメント&TBありがとうございます。アメリカ政府というのは、メディアをフルに自分のために使うんだなって実感しました。「出る杭は打たれる」「長いものには巻かれろ」ってのは、日本だけじゃないだなあってしみじみ。アメリカンドリームってのも、メディア主導型の言葉なのかもしれないですね。

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アメリカはこのような重い事件もすぐに映画にしてしまうというところが凄いですよね。確かにそれだけ自由ということでしょうか、
しかし実話だけに見応えもあり、説得力がありました。
国家に尽くしていた国民が、このような仕打ちを受けるのは腑に落ちませんが、何でも切り捨てるのがアメリカ政府のやり方なのでしょうか。わからないことだらけです。
遅くなってすみません。TBさせてくださいね♪
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einhorn2233

Author:einhorn2233
Yahooブログから引っ越してきました。静岡出身の横浜市民で映画とサントラのファンです。よろしくお願いいたします。

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