「熱波」はドロドロ不倫映画なのにどこかノスタルジックな味わい。


今回は、東京での公開を終えた「熱波」を静岡シネギャラリー1で観てきました。静岡の映画館もメジャー系オンリーのシネザート、ややメジャーとアニメのシネセブン、ミニシアター系のシネギャラリーと色分けが出てきたようです。この映画館も10月から改装工事に入るそうですが、さらにゆったり観やすい映画館になってくれたらと思います。今は座席の前後が狭いんで。

現代のリスボン、熱心なカトリック信者であるピラール(テレーザ・マドルーガ)は隣の老婦人アウロラ(ラウラ・ソヴェラル)が気になっていました。彼女は黒人家政婦のサンタと二人住まいで、生活費は娘が出しているようなのですが、その娘は母親にほとんど会いにきません。アウロラはカジノで持ち金を全部すってしまったりサンタが自分に薬をくれなくて、さらに呪いをかけてるなんてことをピラールに口走って、精神的にも不安定な感じがありあり。そして彼女は病状が悪化して入院、最後にベントゥーラ(エンリケ・エスピリト・サント)に会いたいと言い出し、ピラールが老人ホームにいたペントゥーラを探し出し、病院に向かうのですが、その途中でアウロラは息を引き取ります。彼女の葬式の後、ペントゥーラはピラールに、若い頃のアウロラ(アナ・モレイラ)とペントゥーラ(カルロト・コッタ)の物語を語り始めるのでした。50年以上前のアフリカのポルトガル領で、事業を起こした父のもとで、アウロラはお手伝いと家庭教師のいる家で育ち、有能なハンターでもありました。そして、夫と出会い結婚し、何不自由ない暮らしをしていました。そこへ、ポルトガルから流れてきたペントゥーラが彼女の前に現れます。彼女は夫の子供を身ごもっていましたが、ペントゥーラとの情事に溺れるようになり、遊び人だったペントゥーラも彼女を本気で愛するようになっていました。しかし、それは許されない愛でした。二人は出会ったときから、破局を運命づけられていたのです。

ポルトガルのミゲル・ゴメスが脚本と監督を兼任した一編で、ポルトガルでは数々の賞を受賞してるんですって。この映画はまず作りからして珍しく、二部構成(「第1部 楽園の喪失」「第2部 楽園」)になっていまして、さらにモノクロのスタンダードサイズで、過去のシーンは16ミリフィルムで撮影された荒れた画像になっています。また、過去の回想シーンではナレーションは流れますが、登場人物のセリフはオミットされてサイレント映画のよう、だけどバックの自然音は聞こえるという構成です。映画の冒頭では、亡き妻の面影を忘れるためにアフリカの地にやってきた男がワニのいる川に身を投げるという不思議な映像が流れ、それは中年女性ピラールが映画館で観ていた映画だったというオチがつきます。ここで、アフリカとワニというキーワードが提示されるのですが、現代のリスボンのお話(これが第1部)では、どこにもつながってこないので、なかなか映画の全貌が見えてきません。

第1部はピラールが主人公で、彼女の一人暮らしを淡々と見せます。その中で、ちょっと変わった隣人としてアウロラという老婦人が割り込んできて、ピラールは彼女のことを心配するようになります。アウロラの家の家政婦のサンタは、アウロラの娘が雇い主らしく、家事の面倒以外のことで、あまり彼女に関わろうとはしません。アウロラがカジノで無一文になったときや、病状が悪化したときも、ピラールに何とかしてって相談してきて、ピラールも彼女が気になって、つい面倒を見ちゃうって感じ。このピラールの暮らし、彼氏とデートしたり、宗教デモに参加したりといったエピソードが淡々と描かれます。一体、この映画は何の話なんだと言いたくなるくらい、お話の進展がないのですよ。ぼけかけたおばあちゃんがどうにかなるのかと思ったら、最後に会いたいと言ってた男性にも会わせる前に、あっさり息を引き取っちゃうので、ここでドラマ終わっちゃうのかと思うと、その男性の口から、昔のアウロラの物語が語られて、これが第2部。そこまでのネタ振りにしては、第1部長くない?と思うのですが、プログラムの解説を読むと、そこにポルトガルとアフリカの歴史が反映されているんですって。へえー......。ポルトガルって、スペインと並んで、アフリカの植民地化を進めて、他の国々がアフリカ国家の独立を認めるようになっても、頑なに植民地にこだわったそうで、その後ろめたさが黒人家政婦への恐怖として現れているんですって、へえ...。

そんなよくわかったような、やっぱりわからない第1部が終わって、お話が昔のポルトガル領アフリカへ移ると、若い(しかもきれい)アウロラが中心となったメロドラマになっていきます。そうなると、お話の軸が1本明確になってわかりやすいドラマが展開していきます。それにサイレント映画風趣向も加わって、不思議な味わいの面白さで、観客を引っ張っていくことになります。前半のおばちゃんの日々のエピソードの積み重ねから、ドラマチックな不倫ものになる展開は、いわゆるアート系の作りというのか、監督が単に面白がってやってるだけなのかは判断つきにくいのですが、ドラマにのめり込むというよりは、仕掛けも含めたドラマ全体を俯瞰して楽しむ映画と言えそうです。普通の作りの映画なら、ドロドロの不倫ものになりそうなお話なのに、モノクロ、サイレント風のつくりが、その生臭さをうまく消していまして、その分、味わいは淡白ですが、アート系映画としての面白さが出たように思います。

音楽は主人公が入っているバンドが演奏する「あたしのベビー」といった懐かしのメロディが印象的に使われ、後はピアノソロによる音楽が入り、サイレント映画っぽい雰囲気を醸し出しています。ワニは回想のヒロインのペットとして登場しまして、若い二人を引き合わせるきっかけを作ります。




この先は結末に触れますのでご注意ください。



人目を避けて情事にふけるペントゥーラとアウロラ。でも、アウロラのお腹はだんだんと大きくなってきます。この関係を続けることはできないと思ったペントゥーラは、バンドの仕事でその地を3ヶ月離れる機会ができたとき、別れの手紙をアウロラに送ります。でも、それは自分はアウロラを愛しているけど忘れてくれという内容。アウロラの返事も、自分が悪いの、でもあなたを愛してる。そんな手紙が往復した後、ペントゥーラは返事を書くのをやめます。でも、お互いに相手を想っているという手紙のやりとりは、ペントゥーラが帰ってきたとき、再会した二人を駆け落ちに走らせてしまいます。駆け落ちした二人を追ってきたバンドの友人を、アウロラは撃ち殺してしまいますが、そこで産気づいてしまい、途中の村で出産。ペントゥーラは全てを自分の罪にしようと、アウロラのダンナを呼ぶのですが、彼はアウロラと赤ん坊を連れて去り、ペントゥーラはそこに残されてしまいます。友人の死は、現地の独立運動のスパイが殺されたという話にすり替えられ、植民地紛争の火種にされてしまうのでした。そして、アウロラとペントゥーラは一度手紙を交わした後、二度と会うことはなかったのでした。

ラストは回想の流れのまま、現代に話が戻らないまま終わりになります。どちらもあきらめようと思いながら、お互いの愛情を感じ取り、自分の感情を押さえることができません。周囲も巻き込むドロドロの愛情劇になるわけですが、モノクロ、サイレントの映像は、どこかノスタルジックなおだやかな味わいになっています。第1部の老婦人の寂しい晩年と死がリアルなドラマとしての後味を運んでくる一方、第2部のおだやかな後味のギャップが不思議な味わいになっています。こう書くと、第1部と第2部が水と油みたいですが、実際のところ両者のアンバランスがこの映画の不思議な味わいにつながっているように思います。主張したり語りかける映画ではないので、その映画全体の空気を味わうのが一番楽しめるかも。
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

No title

pu-koさん、コメント&TBありがとうございます。この映画、ご覧になってくださってうれしく思います。傑作かと言われると??なんですが、どこかおかしいというか奇妙な味わいがずっと後を引く映画だと思いました。この主演の人はポルトガルではブレイクしてるかも、いい男ですし。

No title

サンタはそんな象徴的に使われていたのですね。
黒人でも特にアフリカ系を思わせるので、何か繋がりがありそうとは思ったのだけど。
思いつかなかったけど面白いですね(笑)
ノスタルジックで味わいのある映画でした。観れて良かったです。
そうそう、男優さんはジョニーにそっくりでしたね。
TBさせてくださいね。

No title

pu-koさん、この若い主人公は二人ともきれいどころでして、特に男の方は、ジョニー・デップに似た雰囲気を持ってます。「ヨーロッパのジョニー・デップ」と売ったら、日本でも人気でるかも。でも、こういうアート風映画に出ちゃうと二枚目ぶりをアピールしにくくなっちゃうのかな。

No title

構成や絵作りも凝ってるんですね。
ポスターのお二人も美しいし、einhornさんのレビューからもかなり心惹かれます。
こちらでDVDになればぜひ観てみますね。後半はのちほど読ませてください。
プロフィール

einhorn2233

Author:einhorn2233
Yahooブログから引っ越してきました。静岡出身の横浜市民で映画とサントラのファンです。よろしくお願いいたします。

検索フォーム
最新コメント
最新記事
カテゴリ
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
月別アーカイブ